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Parallel Novel
「ハリケーン再上陸。春は微笑みと共に」
Chapter<2:上陸グリーン?。>

…おー?。今日のはカツが大っきいぞ。ラッキー♪。

  中身のカツは機械裁断なので大きさはきっと、昨日のカツと変わらない。カツサンドに対する彼の思い入れが、コロモを膨らませて彼に見せたのだろう。幸せな男だ。“男は付き合う女で成長するもの”という格言同様(?)、直前まで何やら悶々と悩んでいたくせに、カツサンド1つですっかり春うららの彼である。

…いっただっきまぁー

 「恭〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜介っ♪」

 ズドンッ。

 ハリケーン、いいえ、挨拶がわりの張り手が、魂をカツサンドに奪われ、無防備この上ない彼の背中へと炸裂していた。

 「う"っ」

 「にへらぁ〜っとしちゃってぇ。エッチなことでも考えてたんだろ?」

 「………………ご、……………ゴーひぃ」

 「あぁ、わるい、わるい。コレ、飲めば?」

 ささやかな幸せで腹を満たすはずだったカツサンドを胸に詰まらせ、恭介には余裕がなかった。目の前に差し出された清涼飲料の缶をひったくると咽に流し込む。その缶にカプリシャス・オレンジというロゴが付いていることも、缶を差し出した手が、明らかに女性の5指だったという事も彼には到底、認識できなかった。むろん、味も判らなかった。それが、間接キスであることも。

 「だ、誰だ?!」

 恭介は手荒い挨拶の主を視界に収めようと、左斜め背後に上半身をひねった。た。た。た。た。ら。かかとの高いヒールだった。生ふくらはぎだった。ええい、太股が。んでもって、ぼでーらいんがクッキリハッキリ!。

 「おっす、恭介。久しぶり!。孤独に楽し〜くカツサンドってワケ?」

 声の主は、右手を腰に当て、左手でセミロングの髪を掻き上げ、身体でアルファベットのSのような曲線を作り、ダイナマイツなポーズを決めている。男子学生が妄想を抱えて振り返っちゃうような美女であり、恭介には…ハリケーン(改)だった。

 「うわっ…あ、あかね!」

 「キミが驚くのも無理はない。どぉ?。この格好、似合ってるだろ?」

 ハリケーンは両腕を地面と平行に開くと、その場でぐるぐると旋回し始めた。ここは、芝生の上。出来ることなら、お立ち台か、メキシコ湾上でお願いします。

 「恭介ー、あたしさー、きょうからー、この大学にー、通うんだー、まどかちゃんのー、こうはいにー、なるんだよねーーーーっと」

 ストップ!。慣性の法則から解き放たれて、彼女の髪がサラリと揺れ戻った。前髪の隙間に春の日差しがキラキラ透き通って輝いた。 が、恭介にはより激しい渦が見えていた。こういうときの進路予想は被害状況をより、悲惨なヴィジョンへと気圧降下させ、彼のイマジネーション空間を激しく擾乱するのである。コロモの大きいカツに魂を抜かれた方がまだ許せる。いや、カツはおいしいのだから、味覚細胞的に無条件許可だ。

 「後輩…ってことは、も、も、も、もしかしてぇ?!」

 「受験勉強お疲れさま、合格おめでとう!。…くらい、言えば?」

 「あ、…おめでとう…」

 「なぁんか、ぜーんぜーん、おめでたくなーいって感じ。ま、いいわ」

 そう、微笑むと、彼女はハンカチを広げ、恭介の隣に腰を下ろし、健康そうな両脚を芝生へ投げ出した。むだ毛…無し。よし。

 春日あかね。20歳。恭介と同い年のいとこ。
 彼女は高校卒業後、星女学院の短大コースへ入学した。今年の3月に卒業したばかり。就職はどうしたんだ?。

 「やりたい事見つからなくってさ。で、仮面浪人してたってワケ。驚いただろ?」

 あかねの話を要約すると、恭介(ごとき)が入学できる大学なのだから私も入学できるハズという彼女の受験戦略が見事に成功した、よって、ここに居る、あたしは今日から講義が始まるんだよ、仮面浪人していたのを黙っていたのは悪かった、でもいいよね?、ということなのだ。

 「同じ学部じゃないか!」
 
 「だから、どーだってゆーのよ? 文句ある!?」

 「学科まで同じじゃないか!」

 「怒んなくったって、いいだろ!」

 「あ…」

 2人は吹き出した。
 恭介もあかねもこんな風に、ノーガードでやり合うのは久しぶりだった。もしかしたら、2年以上は経過していたかも知れない。昼明けの3講目開始を知らせるチャイム…けれども2人には、どちらからともなくエスケイプを言い合わせる事すら必要なかった。人影がまばらになった芝生に座り続ける2人。朗らかな春の風が、あかねの体香を恭介へ届ける。恭介は間接キスをしてしまった事に気付かぬまま、鼻孔の奥であかねの今と過去を照合するのだった。

 

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※仮面浪人:浪人専門でない。在学、在職しながら、こっそり受験勉強しちゃったりしてる事です。

※ノーガードでやりあう:ボクシングの防御(ガード)抜きに真っ向から打ち合うスタイルを語源としています。

※エスケイプ:海外のKORファンにはエスケイプでもサボル(サボタージュ)でも通じる場合あり。

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