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Parallel Novel
「ハリケーン再上陸。春は微笑みと共に」
Chapter<1:交わる未来。FUTARI>

 「…真っ白じゃない。まだ、決めてないの?」

 「う、うん。それがさ…」

 春日恭介と鮎川まどかは、大学4年になったとき所属する研究室の所属希望を大学3年の春に提出しなければならなかった。一応、4年になった際、変更は効くらしいのだが、3年の間に所属希望を出した研究室から幾つか課題を与えられ、単位も認定されることから、今春の申請でほぼ決定といえる決断なのだった。で、はたと困ったのである。春日恭介は。しかし、困り抜いて答は出していた。

 「ちょうじょうけん…………」

 「そ。超常現象研究室にしようと思うんだ」

 「超常研って、毎年、行方不明者が出る、就職率は限りなくゼロに収束、その上、担当教授が超偏屈、研究室の存在自体が超常現象〜っていう研究室でしょう?」

 「そうそう」

 「お化けとか悪魔とか呪いとかUFOとか、現地に行って調査するアレでしょう?」

 「あはははははは。そうなの、そうなの。研究費の無駄遣いってヤツね」

 「……………………」

 「だ、だからさ、」

 「超常研だと超能力者の研究もしてるでしょう?」

 「ああ、…し、してるね。してる、してる…ははは」

 「やい、超能力者の春日恭介!」

 「はい!」

 「あたしもそこにする。…って言ったらどうする?」

 「えぇ?。だって、まどかは…」

 「もう、慣れましたって。それに、もし、危険が迫っても、あたしには専属のガーディアン・エスパーがいますから」

 「そんな理由で決めちゃっていいのかなぁ………」

 「鮎川まどかは、春日恭介の研究をする。決めた!」

 「…………ダメだよ、そんなの、絶対…、絶対ダメ!!」

 春日恭介は悩んだのだ。この選択は彼女の意見を訊き決めるようなものではない。もしかしたら、将来を決定してしまう最終決定かも知れない。受験の際、大学は何処でも良いわけではなかった、学部も偏差値と折り合いがつけばそれで良いわけでもなかった。が、確かな自信もなかった。なんとなくといえば、なんとなくだった。鮎川まどかと一緒にいたかった。それだけが確かな理由だった。入学してから2年間は目標を見つけるための緩衝期間であったといえた。が、彼には確たる自分の将来は見えていなかった。鮎川まどかは今も傍にいる。しかし、こと将来の姿を思い描くと、彼女との距離が開いてしまったような気になっていた。

 一方、鮎川まどかは、余暇を利用しては音楽修行のためボストンにある音楽大学へ短期レッスンを受けに行く、アルバイトも本牧のジャズ・クラブでのピアノプレイ。1本ビシッと背骨が通っている。最近では横浜の某エフエム局でオンエアーされているジャズ番組の朗読パーソナリティを始めた。バリバリ結果を出しているのだ。彼女にとっての大学生活は最初から、恭介と実際に共有できる空間としての意味しか持たなかったのかも知れない。

 「…あ…ごめん、オレ変だ。どうかしてる…」

 恭介は焦っていた。カメラ、賞を取ったものの、彼には継続して自分の作品で自分を売り込んでゆけるほどの熱意は沸かなかった。あの賞だって、鮎川まどかが「申し込んでみたら?」と助言してくれなければ、幻だったのだ。そして、また迷っている自分がいる。今回の決断は消去法に近かったし、自信を持って決めた結果ではなかった。でも、自分自身で決めたのだ。

 なのに、鮎川まどかはほとんど思いつきのように決断をする。彼が悩んで決めた結果がまるで価値のない事だと言わんばかりに。だが、恭介は彼女の気持ちを判っているつもりだった。なぜなら、彼女がお化けとか妖怪とかその手の類にからっきしなのは、今も変わらない。恭介の研究をすると言ったところで、彼が超能力者である事は公表できないタブーなのだから口実に過ぎないのだ。彼女が自身の申請書を恭介に見せ渋っていたのは、恭介の結論を確かめた後、恭介に合わせて記入するのだと思えた。2年前の大学受験の時のように…だから、痛いほど情けなかった。

 「オレ、……大学3年生になっても、やりたい事見つけられなくって…カメラだって中途半端で…自分の事すら、良く判らなくって…まどかは夢に向かってどんどん進んでて…、オレ、釣り合って無いって、…まどかに。鮎川まどかの未来を邪魔してる………嫌なんだ、…こんなオレ。…でも、まどかが一緒にいてくれるのは嬉しくって、オレも、一緒にいたくって、…………つまり」

 「わかった。恭介。あたしにも言わせて」

 ピシッ。恭介の鼻先に厚手の紙が音を立て、突きつけられた。まどかの申請書だ。研究室名が記されている。躊躇いの痕など微塵も感じない、美しい文字だった。彼がこれから自らの申請書に記そうとする同じ研究室名。最初から彼女は決まっていたのだ。が、彼女にしてもこの決断は大いなる賭けといえた。見せるタイミングをしくじったら、恭介の決断を変えることになったかも知れなかった。運命は確かにそこに、ある。

 「ど、どうして……………」

 「ごめんね、意地悪な演技しちゃって。あのさ、…恭介はあたしの知らないあたしを発見して、“ホラ、これも鮎川まどかだよ”って教えてくれるんだ。で………ちょ、ちょっとエッチな発見も、あるけどさ、嬉しい、そう思ってる。お返しってワケじゃないんだ…もっと、知りたい…恭介のこと…だから、あたしは超能力者の研究をする。何が起こっても恭介には迷惑、かけないよ」
 
 「…どか…………まどか!」

 「ぁ…」

 2人は愛し合っていた。情けなさも気遣いも飲み込み、互いの未来は深く交わり始めていた。

 その事に意地を張る必要など、ない。

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※超常現象研究室:本文でまどかが説明している通りの研究室です。言うまでもなく架空ですよ。2人は近い将来、カメラ、音楽と特技を生かした道に進みますから、大学での専攻は思いっきり架空がよろしいだろうという作者の判断です。それに、この手の研究室に2人が所属したらハプニング続出でネタ探しが楽。

※ボストンにある音楽大学:察しの通りバー○リー。

※まどかの行動拠点:「OVAハワイアンサスペンス」でまどかの机に置かれた恭介からの手紙に、鮎川邸の住所(神奈川県横浜市○区)と書かれているで“あろう”事を採用しました。

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