「さてっと!」
「も、もう休憩は終わりなんかいのぉ…」
「そーですよぉ〜。この世界の出口までアタシとおじーちゃんのスプリント勝負!」
「ぬ…なぁ〜んじゃ。バレておったんかい」
しかし、本当の理由にはさしもの勘の鋭い鮎川まどかですら気付いていない。肉を切らせて骨を断つ!、成功じゃ!。そう確信する老人は決まり悪そうに禿げた頭を撫でつつ、内心、ウキウキなのだった。
2人はルールを言い合わせる。このダウンヒルから同時にスタート。同じコースを走る事。春日爺は超能力パワーを全開にして良い事。でも、テレポートでズルしちゃダメ。ゴールはアバカブ。じゃ、いくよ!。
「ほぇぇ。なんちゅーオナゴじゃ。疲れというものを知らんのかい。ワシのパワーを完全に凌駕しとる」
…恭介め。絶対にロードレースを観戦しに来ないでくれ、などと抜かしおってからに。こんなムフフを独り占めしよーとしていたとは、けしからんヤツ!。新鮮な刺激さえあれば、ワシのムスコ…
まどかの走り姿を目の当たりにして、春日爺はチカラ強ぉ〜く、妄想を繰り返す。が、間もなく、本気モードでペダリングした彼女にぶっチギられ、後姿をロストしてしまった。妄想の果てに若さを取り戻したかどうかは老人の報告を待つとして、アバカブに辿り着いた時には超能力パワーを使い果たし、精根尽き果てた状態だった。ごくろーさん。
「おかえりなさい。まどか君とのウキウキ・サイクリングはどうでしたか?。ささ。アイスコーヒーでもどうぞ」
店の表にビアンキのロードレーサーが停めてない。店の中にもまどかの姿がない。マスターもまどかはまだ帰ってきていないと証言している。と言うことは、ワシの勝ちか!。ぬほぉ〜。と大人げない老人はむせび喜んだのである。
「ん?。でも、まどかちゃんは何処に行ったんじゃい?」
「はい?」
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