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Parallel Novel
「サマー・チェイス!きまぐれとりっく」
Chapter<6:天使のスリップストリームは…>

 まどかは振り返った。

 登り坂の途中。横浜の海が広がっている。視点を移すと、彼女のビアンキの数メートル後方で春日爺曰く、『どーじゃ、まどかちゃん!。これが、天狗峠で無敵の名を欲しいままにした銀輪、“無印じじーすぺしゃる”じゃぁ!』が蛇行し、鍛えたハズの健脚は…すっかり息が上がっていた。

 「若いオナゴと、ひぃ、えーのー、ほぇ、ひと漕ぎする度に、はぁ、若さが、ふぅ、盛り返してくる、ほ、ようじゃわい、はぁ、アヤツ等に、ほぅ、見せてやれんのが、ひぃ、残念じゃ、ほ、じじーじじーと、ひぃ、老人扱いしよってからに、へひぃ〜〜〜〜」

 まどかは思わず吹いた。休ませないとこの老人の寿命が縮まるようにしか思えない。やせ我慢は春日家の血のようだ。ぷふっ。

 「おじーちゃん。アタシ疲れちゃった。少し休んでいい?」

 まどかはとっくに気付いていた。アバカブを出てからというもの、人影も車も全く無かったのである。パラレルワールド…春日恭介と以前、迷い込んだことのある平行世界。アバカブのドアがこの世界の入り口。この世界は春日爺が操っているのだろう。付け加えるなら、老人がまどかのお尻を見ながら自転車を漕いでいた事にも。

ガチャン、ガチャン。

 坂道の途中にある自動販売機の取り口にジュースが2缶落ちた。まどかはそれらを回収しつつ、横目で路側に腰をおろした春日爺を伺う。老人は腕時計を気にしている…まどかをパラレルワールドに連れ込んでまでサイクリングに行こうだなんて…。そろそろ理由を訊ねてよい頃合いだった。

 「はい。ジュース」

 「おほぅ?!。悪いのぉ〜」

 「それ飲んだら、帰りましょう。ね?」

 「ぬ?。だ、だめじゃ。まだ終わっとらん!。あ…。こ、このジュースがの、まだ終わっとらん、残っとるんじゃ。のわははは」

 老人はあやふやな笑いに逃げた。ははん。そーか、そーなのね。時間を気にしていたのはそのせいか…。まどかはピンときた。彼女にしても時間は気になっていたから。今少し、ご老体をつつけば、核心に迫る答が引き出せそうだった。

 「パスしてるといーけど…。あの右折と踏切…。それに、苦手だって言ってた坂道発進…ちゃんとクリアできたかなぁ…」

 「心配いらんよ、まどかちゃん。全く持って、問題無しじゃ」

 「確か…検定コースの途中に女子高があって…」

 「へーきじゃよ。時間とは往々にして遅れたり進んだりするものなんじゃ」

 「そーですよね。うん…あ、でも、もしかしたら…」

 「ほ、他にも何かあるんかい?」

 「ええ……あそこ…だいじょうぶかなぁ…」

 「ど、何処なんじゃその場所は。まどかちゃん!」

 「今から、見に行ってみようかなぁ〜」

 「そんな事したら、パワーを使って手助けしているところを目撃、し、し、しなくても、しっかり前を見て運転しておるハズじゃからして、だいじょーぶじゃ。ぬ、ぬは、ぬははは」

 なるほど…ね。あくまで自力がモットーの恭介が手助けを頼むハズはない。だから、恭介に知られないように。まどかに勘付かれないように。春日家の超能力者が知恵を絞って一肌脱いだ…結果こうなったのだろう。そして、まどかをパラレルワールドへ連れ込んでまで隔離しようとしたばっかりに…彼女の知り得る事となった。鮎川まどかにはそう、理解できたのだった。納得。

 「こ、こんな、おいしージュースは久しぶりじゃのぉ〜」

 春日爺は、鮎川まどかの誘導尋問にひっかかり、『しまったぁ』という表情をしつつ、一瞬だけ、『してやったり』という薄笑みを混ぜた。まどかの横顔をチラリと伺い…この老人は何をたくらんでる?。そのたくらみに…気付き始めている者がいた。

 くるみ:「あかねちゃん、帰ろ〜よぉ〜。お腹空いたよぉ。うるるぅ」

 あかね:「あ、ああ…。そうしよう。なぁんか、気ぃ抜けちゃったな。こんな事ならアタシがまどかちゃんの担当だってよかったじゃん…ちぇっ」

 何事もなく恭介の運転する教習車は坂道発進をクリアしていったのだった。春日あかねによる最終兵器投入は未然に防がれ、風前の灯火かと思われた春日くるみの命運は存続されたのだった。それだけに、あかねには不満があった。鮎川まどかの担当に任命されなかった事の理由を意味無く感じたからだ。彼女の脳裏には、今回の計画を言い出した春日爺との応酬がリプレイされる。

 『きゃつの路上教習を見たがあれでは絶対に卒業検定にはパスせん!。力を貸してやらねば恭介がまどかちゃんと約束した日までに絶対に免許は取れん。これは恭介のみならず、まどかちゃんのタメでもあるんじゃ!。よいか、者共!。春日家の超人のチカラを結集するときは今ぞ!。ぬははははっ!』

 『アタシ、まどかちゃんの担当がいいんだけど?』

 『だ、ダメじゃ!。“きまぐれ移動体M”の担当は、ワシくらい人生経験豊かな能力者でなければならん!。万が一にも力を貸した事を勘付かれてはいかんのじゃ!。すなわち、若さに任せたパワーではなく、老獪なテクニックがモノを言うんじゃい!』

 なぁ〜んか、違うよねぇ。そう思ったのだ。でも、春日家の長がそれこそ今にも血管ブチキレそうな赤ら顔で、そうしろと熱弁を振るうモノだから…。改めて考えるに、やっぱりヘン…。だって少なくとも恭介は十分に卒業検定をパスするだけの運転をしていたのだから。どー考えても、こんな作戦…体よくスリップストリームを利用されたようにしか思えなかった。

 あかね:「あんのじじぃ、まさか…」

 

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 まどかとパラレルワールド: 本作ではこの時点までに、鮎川まどかが春日恭介とともにパラレルワールドに行ったことがある、設定にしています。それがいつだったのかは、以降の作品にて。

 

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