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Parallel Novel
「サマー・チェイス!きまぐれとりっく」

Chapter<4:反則ごっこ。2人の秘密>

 アバカブの扉の側壁に立てかけられた鮎川まどかのビアンキが金属の曲面々でもって陽射しを幾重にも反射している。

 「ほぉ〜、春日君が車の免許をねぇ」

 「そうなの。それがね…」

 アイス・カフェラッテ。急遽、ランチタイムのお手伝いをしたまどか、バイト代を受け取らない彼女へ、マスターからのささやかなお礼。まだ残っているミルクの泡へ、まどかは視線を落とす。彼女は、これからマスターに話すことは全て“学生食堂で起きた事”…と自身の心に言い聞かせた。なぜなら2人は…まどかの部屋に居て、一糸まとわぬ状態でベッドに横たわり、しちゃった後のシチュエーションだったのだからして。

 

 『あのさ、さっきの話の続きなんだけど、…ロードレース…オレも付いてっちゃっていいかな?』

 『出走するの?』

 『いや、写真、撮りたいんだ。まどかの走ってるところ。クルマで先回りしてさ、いいポイントで待ち伏せして。まどかに気付かれないように、パシャッ!って感じ』

 『へぇ〜、パパラッチ・春日恭介ね』

 『違う違う。そーじゃなくって、一瞬のきらめきってヤツを捕らえてみたいんだ。わかる?』

 『うんうん。よぉ〜く、わかるよぉ。レンズを意識してない時の表情って無防備なのよね。アタシもたまに撮るもん。恭介の寝顔』

 『うそ………』

 『う〜そ♪』

 『な、なんだぁ、このこのぉ〜、お仕置きだぞぉ〜』

 『あ、ちょっと、く、くすぐったい、やめ、やめてってば、…あ、バカ、だめ、そ、あん、イヤ、だっ、て、や、やめろよな!』

 『あははは。後悔した?』

 『わき腹、反則だって言ったの恭介なのに。ずるいんだから!』

 彼にしても脇腹はウィークポイントなのだから反則だった。まどかは両手の手指を駆使して恭介の脇腹へ反撃した。ピアノに向かえば華麗なタッチで88鍵を縦横無尽に操るまどかの手指。その天使のフィンガー・テクニックにかかれば、彼のやせ我慢など長くは保たない。

 『ひゃ、やめ、勘弁して、うっ、悪うございました、あ、ひひひ、くっ、』

 あ〜ぁ、どっちがお仕置きされているのやら。“こうすれば、こうされる”。お互い判っていながらまるで、幼い子供みたいに戯れる2人…どうしようもなく恥ずかしい秘め事。興じながらそう、思う…鮎川まどか21歳。ったく…、誰のせいなのよ。

 『あ、でも、運転…どうするの?』

 するり。

 直前まで、わき腹くすぐり攻撃に悶絶して、息も絶え絶えだった春日恭介はベッドに鮎川まどかを残し、彼女の机まで歩くと一枚の紙を手に取り振り向いた。

 『これ、エントリー用紙だよね?』

 『そーだけど?』

 『来月。第2週の日曜日か…』

 その直後。夏の訪れを告げようとする陽気のせいかも…彼が暴挙に出たのだった。いや、やはり先刻の戯れのように、彼女のきまぐれへのし・か・え・しだったのかも。

 ロードレース当日、まどかは出走しているのだから、いつものように車のハンドルを握るわけにはいかない。仮に恭介が免許を取得するとして、この時点で彼はまだ仮免許を取得したばかり。彼には依然、路上教習を受け、卒業検定をパスした後、試験場での適性検査と学科試験というスケジュールが残されていた。彼が教習所通いを始め仮免許取得に至るまでのペースからして、ロードレース大会当日までに余裕を持ってこなせるスケジュールでは無いと鮎川まどかには計算できた。だから、『運転どうするの?』。

 『バッチシ当日までに免許を取るからだいじょーぶ!。はははは』

 なのに恭介ときたら、涼しい顔でエントリー用紙の出走者の欄に“カメラマン”と付け加え彼の名前を書き込み、素っ裸で腰に手を添え胸を張るのだ(こら、前隠せー)。

 『もしかして、パワー使って、ズルしちゃう?』

 『この春日恭介、絶対に自力で取ってみせます!。オレ、こーゆー時にパワーを使ってズルした事、今の今まで一度だって無いよ!』

 『ごめん。ごめん、恭介。冗談だってば。こっち、来て…』

 結局、恭介に押し切られてしまった。『絶対に無理はしないこと』。まどかは恐らく効力を持たない約束付で彼に譲ったのだった。

 

 「…というワケなの。もっと余裕を持って取れば?って勧めたんだけど、どうしても今取るんだ!って強情なんだから」

 「それで、こんな天気の良い土曜日に、まどか君をほっぽらかして卒業検定を受けている…ふむ。そうかそうか…」

 「…え、何?、マスター、うなずいちゃったりして」

 まどかはちょっと不安になった。あられもない2人のシチュエーションにマスターが気付いてしまったのでは無いか、学生食堂での出来事として装えなかったのでは無いかと。

 「さっきみたいに独り颯爽と走り抜けてゆくまどか君も素敵だけど、ハンドルを誰かに預けてさ、助手席でうたた寝をしているまどか君の姿も…見てみたい気がするかなーと、思ってね」

 「………………」

 「…ぉおっと、誰か、じゃなくて、春日君だった!」

 「ぷふっ。若葉マーク付きの春日恭介、でしょ?。うたた寝するつもりが、永遠の眠り、なんて事にならなきゃいいけど」

 「そう言ってまどか君が心配していたと、春日君には伝えておくよ」

 「あ〜、マスター?」

 「わはは。噂はこれくらいにしておこう。春日君の手元が狂ったら大変だ」

 まどかと恭介の秘密は守られたが、まどかが店内の時計を気にしていた事はバレていた。今頃、恭介は女子高前の渋滞に巻き込まれている…かな…。

カラン。

 「おほ〜!。ここにおった!。探したぞい。」

 

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 まどかの運転免許: オリジナル小説の設定を継承し、まどかは既に普通免許を取得済みです。 

 恭介の暴挙: 爽やかエッチな恭ちゃんです。でも、前は隠そうね。

 

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