春日まなみと春日カズヤが待機している踏切は路面が波打って凸凹(でこぼこ)している。クルマで通過すると上下動が激しく舌を噛んじゃうかも知れない…んで、ドッカ〜ン。そんな事にならないように『うっかり者』がここを通過する際の手助けをしてやろうというワケだ。2人は踏切際で道路に背を向けて立ち、横目でもって『うっかり者』の登場を待っている。でも、横目じゃ心もとないので猫のチカラを借りることにした。だから、カズヤの頭にちょこんとジンゴロが乗っている。都合、2人と1匹のチーム。
ジンゴロ:「みゃあ!」
カズヤ:「あ、きた!。まなみお姉ちゃん、来たよ!」
まなみ:「え?。どこ?。見えないわ…?」
カズヤ:「ホラ、踏切の反対側〜!」
まなみ:「こ、小松さんと八田さん!。よりによって…こんな時に現れなくったっていーのに…もぅ!」
小松:「おーい。むぁ〜なみちゃぁ〜ん!。お待たぁ〜」
八田:「いたいたぁ〜。八田さんですよ〜ん」
よけーな奴らが湧いて出た。おっと失礼。これから超能力を使おうって時に居合わせてもらっては都合の悪い彼ら。手を振り、こちらに向かって踏切を渡ってくる。
まなみ:「お待たぁ?。どーゆー事かしら…」
カズヤ:「そんなことより、どーしよー、まなみお姉ちゃん」
まなみ:「そーね。なんとかしなくっちゃ。んー、んー、んー」
まなみは頬を紅潮させ考えてみた。結論はすぐ出た。“あの”くるみの面倒をよく見てくれる彼ら。まなみ自身、彼らの“希少な良いところ”を知っているだけに…邪険にはできないのだった。まなみちゃん、あなたは偉い。
まなみ:「よぉ〜し…」
まなみはサッとしゃがみ込んで手探りを始めた。演技とはこうやって始まるもの。今日ときた日にゃ、眼鏡ではなくコンタクトにしてきて大正解。彼女が心の中に用意している次のセリフはこれ。『あー!。大変大変ー!。コンタクト落としちゃったぁ〜。ああーん!』。観客(小松と八田)を惹き付けておく隙に…カズちゃん、なんとかして!という寸法。が、ハプニングもやはりこうやって発生するものなのだった。
「ニャンゴロー!。もどってらっしゃーい!。電車がくるのよー!」
ニャンゴロ?。まなみとカズヤはジンゴロを見つめた。このネコを呼び間違えているのでは無さそうだ。って事は…2人は踏切の中央付近へと視線を移す。喜劇はもう始まっていた。
小松:「は、八田!。ボタン、ボタン!。非常ボタンを押せぇー!」
八田:「お、ぉおー!。まかしとけっ。ほ、ほ、ほ、ほ、そぉ〜れ、真っ赤なボタンをポチッっとな〜」
すわ、男一生の大事。一瞬の躊躇いもなく、踏切際に設置されている支障報知装置を作動させる太っちょ眼鏡の青年。踏切の中では背の高いロンゲの青年が初夏の気温なにするものぞ、熱っぽい青年の主張をぶちかましている。
小松:「おじょーさん!。ここで出逢ったのはきっと運命です!。ボクは高陵学園大学3年、教育学部、現代社会学専攻、小松整司、21歳…(長いので割愛)…将来は女子高でウハウハ、じゃなくって、誠意と真実に殉ずる聖職者を志しております!。んで…(さらに長いので却下)…今、おネコ様をお助けいたします!」
八田:「はいはい〜、八田一也、21歳もお助けしちゃいます〜。漫画家志望だけどね〜」
小松と八田はニャンゴロを追って線路上を走り出した。命がけの親切、しかしてその実体は、あさましい真実。後日、彼らは動物愛護の精神や良し、という事で補償問題には至らなかったが、各方面からこってりしぼられた。同じように、ニャンゴロの捕獲には成功したが、飼い主の捕獲に失敗したことは言うまでもない。
カズヤ:「あ!。向こうの踏切渡ってるぅ!」
まなみ:「あら、ホント」
喜劇に気を取られている隙に、『うっかり者』が運転する教習車は路面の整備された隣の踏切を難なくクリアしていた。<<踏切はパス>>。カズヤがC地点の春日婆に思念を送る。お役目終了〜。でも。
まなみ:「…あの2人、どーして、あたし達がここに居るって知ってたのかしら?」
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