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Parallel Novel
「サマー・チェイス!きまぐれとりっく」

Chapter<2:彼はお髭のレインボウ・メイカー>

 「はぁ、はぁ、ぁ、はぁ」

 虹が見えた。

 ちいさな虹。ホースから吹き上げられた細かい霧と初夏の太陽が作った“きまぐれ”。その魔法を振りまいている人の正体を鮎川まどかは知っている。

 『まどか君、ホースを貸してごらん。いいかい?。虹はね、こうやって作るんだよ。ほぉ〜ら!』

 巧みにホースを操って、レクチャーしてくれた髭面の魔術師。その日も彼の術にかけられ、夏のエレメントは虹へと姿を変えたのだった。今、鮎川まどかはワザと虹をかすめてビアンキをベダリング、彼にとびっきりの笑顔で挨拶をする。

 「マスター、こんにちは!」

 まどかのアタックを受け、虹が一瞬、それまで以上にキラリと輝き、
 …消えた。

 「おぉ!。まどか君」

 「はぁ、はぁ、虹作っちゃたりして。はぁ、まぁた、ふぅ、若い娘を騙すつもりなんでしょう?はぁ、ふぅ」

 「ん?。わははは。水浴びでもするかい?」

 お髭のレインボウ・メイカーは息を切らせて自転車を走らせてきた悪戯の主に向かって、虹を放出していたホースの口を向けようとする。悪戯だけでは飽きたらず、悪態までつくとはとんでもない…天使だ。

 「あ。やだ!」

 冗談ですよ、冗談。こんな応酬…2人は幾度となく繰り返してきた。ぷくっと頬を膨らませたかと見せ、吹き出すまどか。彼女の呼吸はもう整いつつある。マスターは虹を放出していた蛇口を閉めながら、自転車から降り立った天使に瞳を細める。

 天使は、お尻と太股にピチっとフィットした白いレーサーパンツ、両脚の健康美を露出し、その先の素足にやはり白い革製のシューズを履いている。視点を上げれば、これまた白地のレーサージャージに豊かな双丘のプロポーションを収めており、ジャージの前後には彼女が所属している?レーシング・チームのプリントが。

        TEAM KIMAGURACING

 橙色のロゴタイプは彼女のお手製。もちろん、そのチームに属しているのは彼女だけ。

 「いいのかい?。そんなにサービスしてしまって」

 男っていうのは時に、男によっては常時、スポーティーなファッションとエッチなファッションの区別を付けられなくなる生き物なのだ。今、おそらく後者の類に属する多数の視線が鮎川まどかに注がれていた。しかし、慣れたもの。彼女は意図関せぬ、屈託のない笑顔を作ってチクリとお返しをする。沿道に聞こえるよう明瞭に。作戦の協力者は豊かな顎髭に手を添え、作戦開始の合図を待っている。

 「マスターもギャラリーのひ・と・りなのかしら?」

 「年頃の娘を持つ父親の心境、と言ってもらいたいね」

 「陰で娘の見物料取ってたりするのかも?」

 「お!。そのアイディアいいね。貯めた資金でライブスペースのある店を一軒出そうかな。どうだい、まどか君。もう少し、沿道の声援にサービスしてみるかい?」

 「あ!。そぉ〜くるんだ?!」

 「わはははは」

 まどかへ暑苦しい視線を送っていたギャラリー達は2人の応酬の最中に去っていた。多感な時期を陰で支えてくれた人は今も彼女の良き理解者でいてくれるのだった。2人は視線を合わせ互いを讃える微笑みを交わす。よくできました。

 「ところで、まどか君は何処まで走っちゃうつもりなのかな?」

 「パリ・シャンゼリゼ!って言いたいところだけど。ここがゴールだったりして」

 「ははは。じゃ、マイヨ・ジョーヌの代わりに当店の黄色いエプロンでも着てもらおうかなぁ」

 「あ〜、マスターってば、ずるいんだ」

 アバカブはランチタイムを迎えようとしていた。そして、おそらく本日はアルバイトの子がお休みでマスター1人だった。その事を知っていた鮎川まどかだった。彼女は確かに虹に騙され、心の平安を得た若い娘の1人に違いなかった。

 

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 ビアンキ: ロードレース仕様の自転車を想像してください。まどか用にビアンキを採用しました。

 まどかのファッション: スパッツみたいなアレはレーサーパンツという代物。まどか用に黒じゃつまんないので白。レーサージャージも白。靴も白。オールホワイト。

 パリ・シャンゼリゼ: ツール・ド・フランスのゴール。マイヨ・ジョーヌは総合成績トップの走者が着る栄誉あるイエローのジャージ。

 アバカブのエプロン: アニメ中では数種の色が確認できます。展開上、本作では黄色を採用。

 

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