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Parallel Novel
「サマー・チェイス!きまぐれとりっく」

Chapter<1:彼らは時々、超能力者>

 5階建ての雑居ビルの屋上には超人的な能力を持つ術者が2人。飛び降り防止のフェンスに身を寄せ、ビルに近接する交差点を斜めに見おろしている。2人は能力でもって聴覚の感度を上げ、右折を試みるドライバー達の『こんな交通量の多い交差点なんだから右折の時差式信号くらい設置しとけよ、あぶねーだろ?。ま、でもオレの運転テクなら楽々クリアだけどな』なんていう、不平たらたら&慢心どとーのつぶやきを聴き留めていた。

 くるみ:「暇ぁ〜、暇、暇、暇ぁ〜。早く来ないっかなぁ〜」

 あかね:「まさか、もうリタイアしてる…なんて事ぁないわよねぇ」

 くるみ:「あ〜、あるある。モナコ1周するのに30分もかかっちゃうんだから。あっちゃこっちゃでクラッシュして、逆走してても気が付かないんだもん」

 あかね:「モナコぉ〜?!」

 くるみ:「鈴鹿なんて、セナさまのマクラーレン使って予選落ち。“マシンが悪いっ”て文句ゆーから、アタシの愛しいプロストさまのフェラーリ貸してあげたのに予選落ち。ぜーんぜん、ダメなんだぉ〜」

 あかね:「な、なんだ…F1ゲームか…驚かすなって。…ん?!」

 あかねとくるみは『緊急車両』を発見したのだ。やっと来た、土曜日だっつーのに若い娘を2人も、魔がさしたら飛び降りたくなるような場所に待たせやがって。くるみ曰く、アイルトン・セナ様やアラン・プロスト様が運転しているのなら話は別だが…。こーしてやる!。

 あかね:「気配消しはアタシがやるから、フルパワーで思いっ切りいけ!」

 くるみ:「へなちょこドライバーが通りまーす、どけどけーってね!。んー(ギュイ〜ン)」

 交差点は普通の人間には到底、察知できない歪みによって支配された。術者2人の連携技が、あたかもエアーポケットに落ち込んだような、都会の雑踏の中に形成される静止空間を演出している。意志に反して人は横断歩道の手前で立ち止まり、すべからく車両は路側へと停車を余儀なくされた。そして今、まさに『緊急車両』がこの空間へ突入してくる。


 あかね:「そのままそのまま…」

 くるみ:「んーんーんーー(ギュイン、ギュイン、ギュイ〜ン)」


きゅぅ。


 くるみのふんばらかったお腹がハングリーなサウンドを奏でた。心地よく吹き上がっていたかに思えたくるみのエンジンが、ガス欠によるピットインを宣言したのだった。一息の間もなく空間を維持していた、まがまがしい歪みが消散する。動き出す雑踏、車両、そして。

 くるみ:「ひはぁぁ〜〜もほ、だめ」

 あかね:「うわぁ、ヤバイ!!。だから、早く起きて朝食食べとけって言ったのに!」

 危機管理とはやっておいて損はない。危機に直面してしまってから慌ててもしょーがない。そーなっちまったら、神頼みをするか、コメディにするしかあるまいて。あは。

 あかね:「あらら?…無事…クリアしたよ。ま、いっか…」

 悟られないように何かをする…。そんな事は普通の人間のみならず、超人的な術を使う者であれ、多大なエネルギーを消耗するもの。空腹では幾らふんばらかったところで、出るものだって出やしない。くるみの視界には向かいのビルに入居しているミスターフライドチキンの看板が本日の当社比約2倍と輝き、うらめしいほどに彼女の想像力を煽っている。バオン、バオン、バオーン。

 くるみ:「…サマータイム割引かぁ…おいしそーだなー。くすん」

 あかね:「ほら次!。D地点で腹ごしらえしよう。ばーちゃん謹製のおにぎりでさ。な?」

 くるみ:「ふぁ」

 あかね:<<カズヤ。そっちに行ったよ。アタシ達はD地点に移動するから>>

 ミスターフライドチキンの魔術に囚われた春日くるみ。へたり込んだ彼女の両脇に背後から腕を挿し入れ、春日あかねが容赦なくかかえ起こす。今日も暑くなりそう、そして、思ったとおりに暑くなった…2人の頭上には土曜日、お昼時の太陽。初夏の陽射しが燦々と降り注いでいる。

 こんな日は…。


 カズヤ:「まなみお姉ちゃん。A地点の交差点は無事右折できたみたいだよ。こっちの踏切にくるって」

 まなみ:「いよいよ…ね。カズちゃん、教習車が見えたら教えて」

 カズヤ:「らじゃ!。ジンゴロちゃんも準備いい?」

 ジンゴロ:「みゃ!」

 カズヤ:<<おじーちゃん!。こっちはそろそろだよ。『きまぐれ移動体M』への対処よろしくね!>>


 ブレーキペダルが2つ付いてるエキセントリック・エイト・ナンバーをコロがし、彼女とドライブにでも行きたいところ(行きたくない行きたくない)。

 あるいは…。


 春日爺:「ぬ!。B地点がそろそろのようじゃ…。しっかしのぉ〜うほっ。女子高生がおるわおるわ。えーのー、若いオナゴは!。くわははは」

 春日婆:「ここはわたしに任せて、言い出しっぺは『きまぐれ移動体M』ちゃんの対処に行ったらどうかの?」

 春日爺:「わかっちょるわい。むぁ〜どかちゃ〜んとサイクリングじゃぁ。よいか、ばーさんや、邪魔するでないぞ。しかし…こっちも心惜しいのう。花よ、蝶よと舞っておるわい、むほぉ〜」

 春日婆:「はよ、いきなされ。こんのスケベじいさん!(ギュイ〜ン)」

 春日爺:「のわぁぁぁぁ」


 女子高の運動場でブルマ…じゃなくって、高原のお花畑で希少種の蝶々を観察したりするのもいいなぁ。


 あかね:「なワケねーだろー、が!」

 は、はいはい…。
 人助け、ボランティア、お節介。言い方はいろいろあるのだが、春日家の術者が揃いも揃って、よからぬたくらみに奔走しているのにはワケがある。

 ワケ?

 

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  あかねのテレパス: ParallelNovel【5】で彼女はテレパスのスキルを身につけています。本作でテレパスのスキルを持っている能力者は、カズヤ、あかね、おじーちゃん、おばーちゃんの4人。まなみ、くるみ、恭介の3人はノン・テレパスです。作中のチーム編成は伝令のためテレパシストを1人含めるという設定から構成しました。思念送信の内容は<< >>で括っております。

 セナさまとプロストさま: くるみが入れ込んでる。よって「様」が付いています。

 当社比約2倍: カタログのスペック表でお目にかかるアレです。本文中では、空腹状態のくるみには看板がいつもより約2倍輝いて見えている、という意味で使用。

 エキセントリック・エイト・ナンバー: 教習車を侮ってはいけません。フォーミュラー・カーとは違った意味でエキセントリックな装備の数々。んー、たまらん。

『きまぐれ移動体M』: ベタなコードネームですんまそーん。

 

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