「はい、カツサンド1つね。あら、アンタ。いつもの彼女は?」
春日恭介は学生食堂の売店で購入したカツサンドと、お釣りを受け取ったところ。顔見知りである売店の熟女に、痛いところを突っ込まれて、「いやぁ、独りで食べるカツサンドもオツなんですよぉ〜」などと心にも事実にも無いジョークを、床へ失速落下させながら、決まり悪そうに頭をかく。
そう、“いつもの彼女”同伴ではない春日恭介。この季節にしては珍しく生え揃った大学キャンパス内の芝生へ、1人分のカツサンドと缶コーヒーを投げ出し、自身の体もどさっと投げ出した。彼は頭の後ろに腕を組み、ぼんやりと流れる雲を見上げる。同じ芝生には彼の他に数組の学生。「なぁ、お前、何処の研究室にするか決めた?」なんていう会話が彼の耳に入っていた。
彼は寝ころんだまま、ごそごそカバンを探り、大学から配布されたガイダンス冊子を取り出す。冊子には折り目が入ったページがある。数カ所いかにも、『迷ってま〜す』という蛍光マジック(オレンジ色)の躊躇い傷が。彼はそのページに目を落とすと、すぐに辞め、冊子を芝生へ投げ出した(だったら見るなー)。冊子は折り目の入ったページを大開帳〜。どうやら講義名と開講日程、取得単位の表である。
「あぁ、まいったなぁ。どーすればいいんだ…」
大学3年生の春。桜もほとんど散った頃。お昼時の太陽は確実に昨日より暖かな光線を放っている。のどかだ。嵐の予感など見あたらない芝生の上。自身のことで頭がいっぱいの彼が、超能力者でありながら、その身に降りかかる災いを予想できなかったのも無理はない。ハリケーンとは忘れた頃にやってくる。そういうものだ。…と、いうことも彼は忘れていたのかも知れない。ま、そんな法則は無いけれど。
『どーしたの、恭介?。…………あ〜、見せなさいっ』
今日は恭介と同伴していない、彼女の言葉である。
彼女はとびっきりの美人。この大学にいることが不思議なほどの才女。学園物の漫画かアニメのヒロインを地で行く彼女が、実は元はぐれスケバン、“ピックのまどか”なんていう通り名を持っていた過去は、学内で彼しか知らない秘密。2年前の入試、彼女が彼と同じ大学しか受験しなかった事も内緒。2人は同級生。中学3年から6年間ずっと同級生。きっとこの先も。
彼はため息を付く。深く1回。そして、諦めたように上半身を起こすと、芝生へ放りだしてあったカツサンドを掴み、ラップ包装を剥がしにかかった。
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