「かはぁー。“ピックのまどか”が、お受験ですってかよ? え?」
「……………………」
「しかも、噂じゃ“舎弟の男を寝取った”そうじゃねーか?」
「……………………」
「けっ、なんだぁ?その目は?。騒ぎを起こすとお受験にお響きになられてしまわれるんじゃありませんことぉ〜??」
「……………………」
「受験勉強を口実に寝取った男とエッチしまくってたりしてな〜?」
「……………………」
「そのカバンの中によ、“これで合格!元はぐれスケバンでも入れる大学”なんつー本がはいってんだろ?。なぁ? ま・ど・か・さーーーーん」
「そんなところで、何してる!」
「ちっ、マッポか。 おーい、まどかぁ、せーぜー頑張んなー」
「まどかちゃん!。大丈夫?」
「あかねさん。あれ?………………ケーサツは?」
「あぁぁぁぁ、どっか行っちゃったよ。それよりさ、なんで言い返してやらなかったの?。あんなヤツ!」
「ね、あかねさん。この事、黙っていてくれない?。余計な心配かけたくないんだ…春日君に…」
「え?。…………わかった。誰にも…、誰にも言わないよ」
あかねは、まどかを抱きしめてしまいたかった。クールな表情とは裏腹にまどかの声が明らかにうわずり、震えていた。心中は穏やかならぬ、それを見せまいと抑え込んでいる、過去と向き合う鮎川まどかの姿。あかねには痛々しかった。彼女に酷い言葉を吐き捨てたヤツを追いかけ、もう1度パワーを使って、けちょんけちょんにして、奥歯ガタガタいわして、再起不能にして、ミスターフライドチキン人形と抱き合わせの簀巻きにしてベイブリッジから紐無しバンジーさせ、徹底的に後悔させてやりたかった(死ぬってば)。でも、できなかった。鮎川まどかが何かから守るように抱えていたカバン。きっと、その中には彼女の決心が詰まってる。だから。
「……じゅ、受験勉強、はかどってるぅ〜?。恭介のヤツが足引っ張ってるようだったら、アタシが喝!いれとくよ」
「ありがと、あかねさん。でも、大丈夫!。春日君、頑張ってるんだ」
「ええー!。そりゃ、マズイわね。アイツ、まどかちゃんと同じ大学を受験するつもりかしら………無謀よ。無謀すぎるわ」
「あかねさんったら、春日君のお姉さんみたい。あはははは」
「アイツ落ちるわよ。いくら何でも学力の差は歴然だもん」
「そのときは……………」
「え?」
「ううん…、そのときは、そのとき!」
あかねはこの時のまどかの言葉の意味を、まどかが恭介と同じ大学に入学した事でほぼ想像できた。あかね自身が同じ大学に受験合格したとき、揺るぎない確信へと変わった。まどかの学力ならば偏差値なんかに縛られず、何処の大学でも合格できていたハズ。もし、恭介が受験に失敗していたら、きっと、彼女も大学には行かず、浪人生活でも何でも共にしていたに違いない、と。
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