もしかしてこれは夢なのでは。フロントで呼び止められた時、やはり夢ではなかったのだと納得する青年、鮎川まどかだった。ファックスが届いたそう。そこには、解決方法と情報中継をした春日まなみの感想が記されていた。
<くるみをダシに使っておじーちゃんから訊き出しました。『どちらかの意識がない時にゴッツンコすればいーのじゃ!。by じじー』。だそうです。まどかさんとお兄ちゃんが入れ替わっちゃった事、誰にもバレてないから安心して。2人とも残りの日程を自分の身体で満喫してきてくださいネ。まなみでした。>
「…どちらかの意識が無い時、ネ」
寝込みを襲うには絶好のチャンスなのだった。抜き足差し足、忍び足っと。ほぉ〜ら、春日恭介はぐっすり…。
「どーしたの?!。恭介!」
呼びかけても魘(うな)り声すら返ってこない。ベッドで身を丸め、細かくけいれんを起こしている自分の身体だった。その中で彼が苦しんでいる。まるで何かを1人で抱え込み、抱え込んだ痛みを漏らさず、抑え込もうとするような苦悶…。
「今、あたしが入れ替わるから!。ヤだよ、死んだりしたら許さない、絶対、絶対に許さないからね!」
何の前触れもなく他人事のように、たとえ人魚であっても、死は訪れる。その運命が今、春日恭介にやってきたのかも知れなかった。彼を救えるのは医者ではない。数多の神でもない。今、ここにいる女。1人のきまぐれなマーメイドだけだ。
「……………………いくわよ!」
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