青年と人魚はプールサイドに腰をおろし、両脚と尾鰭をプールの中に浸している。星空の下、隣り合って座る2体の生き物の間には、今、不思議な連帯感が芽生え始めていた。
徐々に明らかになってゆく人魚の理由。以前、人間の女だったこと。ある出来事が切欠で人魚と入れ替わったこと。そして…。
「目覚めなかったの?」
「ううん。島の言い伝え通り彼は目覚めた。だけど…わたしの秘密っぽいやり方が裏目に出たの」
「理由を明かせなくなってしまった?」
「ご名答。妹は喜んでた…。傍にいてくれたキミのおかげだよって彼にキスされちゃったって。周囲も皆、妹の愛が彼を目覚めさせたのだと囃し立てた。奇跡だ、奇跡が起きたって。わたしは…人魚になった事を明かせなくなり、自分のウロコが特効薬だなんて、言えなくなった。だから2人の前から姿を消した。逃げたのよ、わたし…」
「そんな…」
「長い間この島には近づかなかった。でも、ある時、潮の便りで彼と妹は一生を独身で過ごしたって知った。2人は結ばれることなく死んだの。居ても立ってもいられなくなって、わたしはこの島に戻ってきた…」
人魚は息を1つ吐き、視線を水面から星空へと移した。
「この島の高台に人魚の臥像があるの知ってる?。あれね、顔がわたしそっくりなの。2人が建てたんだって…2人は…わたしが姿をくらませた理由を知っていたのかもね…」
流星…いや。青年の指が人魚の頬をつたう涙を拭った。
「助かりたい。このどうにもならない運命から抜け出したいの。でも、誰かに押しつけてなんてできない。そこへ、あなた達カップルが現れた。一目見てビビッっときたわ。人魚の第6感ってやつ。だから、予感が本当かどうか確かめさせてもらったというわけ」
それで手の込んだ事をしたと人魚は告白する。審査項目はまどかと恭介の資質と2人の絆。それらは、人魚が人間の女と入れ替わる方法と、人魚が人間に戻る方法を実践する上で必須の確認事項。人魚がまどか達の行動をずっと見張っていたのは当然として、悪党面の男、コンテストの係員の青年、審査員数名、みぃ〜んな、ウロコをあげるという交換条件でもって、人魚に協力した人間達だったのだ。
「そっか。それでね…」
そもそも『マーメイド・コンテスト』はこの島の生け贄の儀式が時を経て、美人コンテストにすり替わったもの。だから、入れ替わる方法は、『マーメイド・コンテスト』でグランプリに選ばれた経験がある人間の女を一噛みカプリ。その儀式は、この島の『マーメイド・ビーチ』で行う。
「あなた、マーマンの血を受け継いだ男が超人的な能力を持つ…って聞いたことある?」
「…ないな…。でも、どうして?」
島の言い伝えでは、マーマンとマーメイドが結ばれると両者共に人間になる。また、マーマン、マーメイドどちらかが既に人間になっていた場合でも有効。人間になった後、マーマンの血を継いだ男は超人的な能力を持ち、マーメイドの血を継いだ女は類い希な美貌を持つと。
「そうなんだ…となると…」
要するに、青年の中にマーマンの血が流れているから、その証拠に超能力者なのであり、
「あなたとエッチすれば人間に戻れるの」
「えーーーーーーーー!!!!!」
「というワケにはいかないから、わたしと彼女が入れ替わった後…彼女とよろしくお願いしたいわけ。わかる?」
そんなのアリなのぉ〜?ってなロジック。けれども、言い伝え通り人魚になった女にとって、この島の言い伝えは信じるに足るバイブル…それに、超能力者の謎が1つ解き明かされるかも…だから…。でもでも、よく考えましょう。こっちだって入れ替わっちゃっているんです。いいんですか。まどかさん?。
青年は目蓋を閉じた。
一息溜め、そして、開く…。
「キミが人間に戻ったらさ…僕らを、この島のとびっきり素敵な場所へ案内してくれる?」
「も、もちろんよ!。小さいけどとても素敵な入り江があるの。そこへ案内するわ」
その時。大勢の色めき立っている気配がした。「あの女は人魚なんだ」。青年が聞き取れる言語も混ざっている。先頭に立っている悪党面の男の姿が見えた…彼らは…
「欲深い連中…ウロコをあげると持ちかければ、どんな頼み事も訊いてくれる。こんなもの、幾らでもくれてやるわ…」
「人間の身体に早く!」
「尾脚変体?。体力も残ってるし出来ない事はないわ」
「だったら早く!。ヤツらキミに酷いことをするんだろ?!」
「とりあえず見せ物にでもして、客入りが悪くなったらウロコを剥いでポイッかな?。ま、そんな運命も悪くないわ。『人魚のサーカス!島の経済はこれで安泰!』なんちゃってね」
「な……………」
「さあ、あなたはこの場を去って。それとも、人魚が人間にいたぶられるところを見たいの?。あ、そーだ。わたしを彼らに売ってくれてもいいわよ?。迷惑料代わり♪」
バチッ!!
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