「嬉しいわ。覚えていてくれたのね?」
忘れいでか。女同士…初体験だったんだゾ!。まどかファンの罵声が飛びそうな、春日あかねブチキレ確定の所行に対する反省の色は全く伺い知れない。プールの縁に立ち、見下ろす視線の持ち主は片手にワイングラス、胸元大胆なイブニングドレス、ドレスに視線カメラを仕込まれたら自我が崩壊しかねない結果を招くであろうスリー・サイズが上から下に『ホラ、どう、よっ』と主張している。
「バカンスでこの島に来てるんでしょう?。なのに、初日の夜から彼女をひとりにしちゃって?。悪いんだぁ〜」
反射音カチン!。
それは、青年の胸で散ったフェロモン濃厚な火花の音。
足して虫の居所が特上に悪そうな残響あり。
いきなり舌入れよーとしたくせに!。(そ、そうだったのか)
「僕が身体をクールダウンしてルームサービスに戻る、彼女はそれを待っているってワケさ」
「あ。それなら、わたしが彼女を冷やしてあげましょうか?。わたしジュゴン並に体表面温度低いから」
「え?。い、いや…そういう事じゃなくって…」
脱臼。策士なのか、天然なのか。悪気は無さそうだけど…。まどかは目の前の美女の性根を掴みあぐねていた。邪険すぎない程度に会話を終了させてしまおう…とにかく今は…、独りになりたい。
「あなたの彼女。今年のマーメイドに選ばれたんでしょ?」
「そーみたいだね」
「あんまり嬉しそうじゃないわね。複雑な男心というワケ?。彼女が自分の手元から離れて行っちゃう気がする?」
「まぁ、そんなトコ」
「あなたなら心配ないわよ。いー男だもん。恋人にしちゃいたいくらい♪」
「僕は彼女と別れるつもりなんてないよ」
「彼女が人間辞めて、人魚デビューしちゃっても?」
「はい?」
もひとつ脱臼。何か支離滅裂な…いや、詮索するのは無し。早いとこ会話を…
「グランプリ受賞者は賞品の他に与えられる権利が1つあるのよ。出場者はみぃ〜んなそれが目当てなんだから。それが、マーメイド・デビューの権利!」
「じゃ、彼女に伝えておくよ。明日からキミは人魚だよってネ」
「ホント?。助かるぅ〜。これで手間が省けたわ」
「え、…何の手間?」
「説得する手間」
「誰を?」
「あなたの彼女」
「どうして?」
「だから、マーメイドになってってよ」
「それって、そーゆー名称のコンパニオンか何か?」
「ん〜、まだ解っていないよーね…」
「????」
ザブンッ。
白い波が立って、脱ぎ捨てられた衣服が波の後に揺らいでいる。
いつの間にか相手のペースに乗せられていた…。
心ならずも触れてしまったのだ。
魔の刻の扉に…。
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