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「きまぐれ伝説。人魚編」

Chapter<4:溶かしてジェラート。人魚誕生!>

 「さてっと…。この辺りは魚影が濃そうだな」

>>水中撮影のカメラ・テストをしようというワケで。ホントは珊瑚礁を泳ぐ鮎川まどかを撮りたかった僕であり。でも、彼女は僕の身体なのであり。よって、サカナでも撮影するしか無いのであり。

 「…ん?。あら?」

 シュノーケルをくわえ直したまどかの身体は1艘のボートへと引き上げられていた。現地の青年だろう。こんがり日焼けした口元に真っ白い前歯がキラリ。ナンパ?。いや、違う。青年は何事か早口でまくし立て、ゼッケンをペタリと彼女の腹部に張り付けた。字幕を継ぎ合わせるとこんな内容の事。

 「いいところに泳いできてくれた。コンテストに飛び入りしてくれないか?。見ただろう?。今年の参加者はレベルが低くて話にならない!。このままじゃグランプリ無しっていう不景気な事になっちまうんだ。観光収益に頼っているこの島の経済としては大問題なんだよ。な、頼む、このとおり!。……………わぉ!。いいのかい!。キミなら絶対イケル、オレが補償するぜ。さ、カメラとかは預かる。ほら、貸して。これゼッケン、お腹に張っときな。じゃ、コンテストの説明を手短にするよ。とってもイージーさ。まず…」

>>耳慣れない言語だった。僕は、最初わけがわからず…。ただ、ウンウンとうなずいていたのであり。次第に青年のボディー・アクションから、どうやら日本で言うところの海の女王を決めるコンテストに参加してくれという事、僕の相づちが“参加了解”と取られていた事に気付いたワケで。遅かった…。

どんっ。

 まどかの身体は海へと突き落とされていた。ボートの上で青年がビーチを指さし、泳ぐ真似とサメが噛みつく真似を交互にしている。ビーチに向かって泳げ!さもなくばサメに食われるぞ!。それは、ジョークを混じりの指示。が、おっちょこちょいな超能力者にはそう理解できない事もある。

>>青年からの無線連絡を受けたゴール地点で、ゼッケンがコールされたと同時に歓声が沸いているのが明らかに感じられたのであり。つまり、「やっぱりやめます」と期待を裏切り後戻りをしたら、ノリが悪いという理由でサメの餌食にされてしまうかも知れないのであり。や、やるしかないワケで。とは言え、

 「結構、距離があるなぁ」

>>正直、僕は今でも泳ぎに自信がないんだけど。出てしまった以上…負けたくなかった。鮎川まどかだったら絶対、グランプリ…そう思えた僕なワケで。かと言って、テストとかオーディションとか、パワーに頼っちゃイケナイとも思う僕なのであり。必死だった。せめて、無様な格好だけは…

 

 「へぇ〜。マーメイド・コンテストか。何処にでもこんなイベントがあるのね」

 そのころ。春日恭介の身体は砂浜に刺さった看板の前で歩みを止めていた。男の生理現象が「慣れ」によって鎮静化し行動可能になったというわけ。看板の先には急設のイベント会場。そこは今、このビーチでひときわ賑やかな歓声でわき返っているのだ。青年は『マーメイド・ココナッツ』を2つ手にしたまま、掲示されている審査基準の要項を読み始める。なになに…

 <沖のボートから海へ飛び込み人魚のように泳いだ後、人魚のようにビーチへとあがり、人魚のようにカラオケを歌います。結果、誰が一番、人魚に似ていたかを競います。>

 ふ〜ん…なるほど。って、どこかの国の安っぽいオーディションと海水浴場のカッパ大会が合体したような、しょーもないったらばかばかしい。さっさとタープに戻ってジェラート食べよ。自分の身体もそろそろカメラのテストから戻ってくる頃だし。

…Like or Love ?. キモチわぁ〜かぁ〜あって、い〜るぅ〜けぇ〜どぉ〜♪ Like or Love ?.

 会場のPAスピーカーが景気良くミックスアウトし始めたのは、出場者によるカ・ラ・オ・ケ。あ、日本のポップスじゃん。日本人も出てるんだ?。リバーブが効きすぎだなぁ、ん〜それに、ピッチもフラットしてるわよ…ってな事言ってらんない聴き覚えのあるヴォイス!。

…あ〜なたマジな瞳でぇ〜、答えるから〜♪

>>得意じゃない水泳の直後にマイクを渡されちゃったから、…という状況も重なり、もともと、歌が上手いとは言えない僕であり。鮎川まどかの身体を使っても、彼女の音楽の才能は発揮できないワケでして。

 「おい………春日恭介。なにやってんのよ…」

 ウケにウケまくっていた。そもそもマーメイド・コンテストの審査基準がいい加減すぎたから、歌の下手さも芸の内ってヤツだった。ある審査員は今にも溺れてしまいそうな泳ぎ表現は、恋に胸を痛め、陸に上がるのを躊躇っている人魚のようだったと讃え、またある審査員は息も絶え絶えにやっとビーチへあがった姿が、あたかも人魚のようにリアルだったと評価し、さらにある審査員はわけわからんジャパニーズ・ポップス:『マーメイド・ラブ・ストーリー』が、初めて人間の文化に触れた人魚のようで感動のあまり泣いたと。ああ…

 「Madoka Ayukawa !」

 ファンファーレが鳴り、観客からおひねりが飛ぶ。

>>やってしまいました。春日恭介。マーメイド・デビューです。

 『マーメイド・ココナッツ:全身とろける恋のお味よ♪』。そんなジェラートのキャッチコピーが恨めしい。ひと舐めもしていないのに、アタシのハートは、ビーチの太陽に溶け、正気を喪失したジェラート。

 「…………………」

 まどかさんってば、まどかさん?。

 2人はビーチを後にした。ただし…。
 おー素晴らしい。キミはまさに人魚だよ。どこから来たんだい?。ホントに日本人?。そんなさえない男とは別れてオレの彼女にならないか?。一緒に写真を撮らせてくれ。もはや、翻訳結果など知りたくもない内容の挨拶を無視しながら。あー恥ずいったら。

 

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 マーメイド・ラブ・ストーリー: こんな感じのポップスです。どんな曲なのかは恭介に訊いてください。

 マーメイド・ココナッツ: ジェラート。まどかは食べ損なったようなので、味のほどは不明です。

 マーメイド・コンテスト: 無論、こんな審査基準のコンテストは…無いと思いたい。でも、あったら審査員やらせて。

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