2人は『マーメイド・ビーチ』へと向かった。ホテルから目と鼻の先、ぷらりと歩いてものの数分。特徴的な白い砂浜は珊瑚が砕けて出来た星状の砂。このビーチから人魚が陸に上がるなんていう伝説付きの観光スポットなのだ。2人は、宿泊先のホテルが宿泊客用に確保している陣地、オレンジ色のタープを探して砂を踏み鳴らす。
「そっかそっか、こんな風に見えてるんだね。恭介の身体だと視点が高い分、視界が広くって何か得した気分」
「…髭の剃り残しが…はは。気が付かないもんだなぁ…」
おおーキミは空港で芸術的なスープレックス・ホールドを決めた青年じゃないか!。見事なブリッジだったぞ。貴男がヒーローさん?。かっわいー♪。わたしのハニーにならない?。いや、オレのハニーになれ。たぶん、翻訳するとこのような内容の挨拶を受け流しつつ、2人は目的の日陰に腰をおろした。
「じゃ、行ってらっしゃい。アタシ待ってる」
「へ?。ココまで来て?。どうしちゃったんだよ?」
「キミのカラダのせいだゾ。わかってる?」
そのカラダは立て膝を組んだ両脚をTシャツでもって、すっぽりと覆い隠しているのだ。Tシャツにプリントしてある精悍なシーラカンスの魚体がつぶれた鯛焼きみたいに平たくなるほど、古式ゆかしい体育座り真冬の1時限目うっかり短パンしか持ってなかった膝が寒いです、なのだった。
「ど、どういう事?」
「…ほ、ホラ……」
青年が顎で軽くしゃくり上げた方向…。トップ・レスの女性達が甲羅干しのみならず、乳房を露わ(あらわ)に徘徊している。わぉ。
>>し、知りませんでした!(ホントか、おい)。つまり、僕の身体がまどかの意志とは関係なく勝手に反応してしまい、海綿が海水を目一杯吸っちゃったというワケでして。おそらく、Tシャツの下でフランス国旗のタープが張られているのに違いなく。彼女が泳ごうとしないのは、そのせいなのであり。
「いっつも…、こ、こうなっちゃってたワケ?」
「た、たまたまだよ。たまたま!」
「タマタマ言わないでよ!。エッチ!」
ぼむっ。投げつけられた浮き輪をキャッチするや、空いた手でシュノーケルと防水ユニットを被せたカメラをひっ掴み、波打ち際に向かって逃げるように走り出した…蛍光ホワイトのワンピースを着た身体。その身体のレンタル料が跳ね上がったのは推して知るべし、あとでたっぷり埋め合わせしてもらうわよポイントが追加されたのだった。
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