上空を舞う海鳥になって見下ろす視点。『マーメイド・ビーチ』に向かって矢を放つように弧を張った建物。それが全室海側、マーメイド・ビーチまで30秒(むろん鯖読み)、立地条件トロピカル・サイコーと自らうたっているホテル。上空で旋回するとビーチと建物の境目にある四角い平面が太陽を反射してキラリと光る。つまり、ホテルのプール。高度を下げて建物に沿って飛ぶ視点。海側の最上階、一室だけガラス窓を開け、ブラインドを降ろしている部屋が見える?。そこが、お2人さんのお・へ・や。
「じゃあ、いくわよ?」
「うん」
いっぱーつ!。
「痛…。も、もう少し強く…」
ゴッツーン!。南十字星は見えたような気がした。
「ぅ…、このままじゃ戻る前にバカになっちゃうよ!」
「オレあんまり痛くない…」
>>相手が相手なだけに頭をぶつける時の力の加減が難しい…そう思う春日恭介なのであり。それにしても、鮎川まどかの頭は…………。
「持ち主に似たんだな…………うん。きっとそうだ…ぷっ。はははははは」
ムカムカムカ!。入道雲ったら積乱雲、大気はとっても不安定ときたもんだ。ここは赤道あたり、南の小島、白亜のホテル。その一室で和製の稲妻が走る。さー、踏ん張って、歯を食いしばりなさい!。
「おっと…。ひっぱたかないんだ?。ふ、ははは。ほ〜ら、遠慮するなって♪。ヒトデ模様が残るくらい、バッチーンってやってもい〜んだよぉ〜?」
「こ、コイツ…」
ビンタは頬にヒットする直前で寸止めされていたのだ。あぶないあぶない。けれど、その理由を察したからといって、限度を超えて相手を煽ってはイケナイ。それが男の節度、もしくは触らぬ神に祟り無しというモノだ。わなわなと震える相手に囮鮎をけしかけ、閾値を突破させるような所行は慎んだほうが…。
「痛たたたっ」
「今はこれくらいで勘弁するけど、アタシの身体なんだからヘンな事させないでよ!。いい?!」
「じ、自分のほっぺたツネったりして何言ってんだい!。そっちこそ、オレの身体に無理な事させたりしないでくれよな?!。さっきみたいにさ!」
「喜んでたくせに!」
「女同士でキスしちゃったくせに!」
「ふん!」
「へん!」
沈黙…。窓辺をかすめて飛ぶ海鳥があぽー、あぽーと気持ちよさ気に2度啼いた。それで2人は吹き出したのだ。海風がブラインドの隙間から部屋の中に吹き込んでいる。そ。2人は喧嘩をしにこの島に来たんじゃない。絆を深めるために来たんだよ。
「ま、この程度の事で驚いているよーじゃ、春日恭介君とは一緒にいられないワケだし?」
「まなみに電話して、おじーちゃんに連絡取ってもらうからさ。ちょっと時間はかかると思うけど、なんとかなるよ」
2人は決めた。解決法が見つかるまでの間、互いの身体はこのままでいいと。そうと決まれば早速、ひと泳ぎしようじゃん。アタシはこのフランス国旗みたいな配色のサーファー・トランクス、キミはこの檸檬イエローのビキニ…じゃなくってこっち!。蛍光ホワイトのワンピースにしなさい。何?。その不服そーな顔は?。ビキニはズレ易いの。だから…アブナイんだから。ワンピースならおっちょこちょいのキミでも…
「恭介。前と後ろが逆!」
そんなところが、キミであるワケなんだけどね。
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