Scene＜２：さゆりの回想。よって、リベンジ！＞

　さゆりが星女学院高等部２年の秋。
　もめ事の相手は高陵学園中等部３年、檜山ひかると名乗った。

さゆり：「噂ぁ〜？。中傷のビラぁ〜？。さゆり、知らなぁ〜い」

　許し難いライバルがいた。けれども、ライバルはさゆりの存在を認識すらしていないようだった。鮎川まどか。高陵学園高等部２年。成績優秀、スポーツ万能、プロポーション抜群、ミステリアスな雰囲気、彼氏ナシ…etc。広瀬さゆりより鮎川まどかの方がカワイイ♪。そんな噂でもってさゆりの自尊心を引っ掻いた他校の女生徒。

　女っぷりを認めさせる事が自分の価値。高校時代入れ込んでいた美男子（ハンサム）ハントはその価値を確かめる手段だった。それ故、あの手この手を駆使し如何なる努力もいとわなかった。加えての完全主義。ぶっちぎりの勝利以外、認められなかった。毛ほどの噂であっても、他のオンナが自分よりカワイイなどと…許し難い事。真相を確かめるべく、ライバルを尾行することにした。

さゆり：「いやー誰かぁー」

　尾行中、不良共に絡まれ、あろう事かライバルに助けられる失態。心臓を射抜いてしまいそうな瞳でもって一喝の元に不良共を退かせたライバル。…不良の１人がこう呼んだ。

　ピックのまどか。

　さゆりも通り名だけは知っていた…伝説とうたわれたスケバン。いつの頃からかその名を聞く機会は皆無になっていたから、更正施設に送り込まれたか引退でもしたんだろう…その程度に思っていた。

　『このあたりはヘンなヤツが多いから、気をつけて』

　同一人物だった。正面から喧嘩をふっかけたら返り討ち必定。が、同時に棚からぼた餅だった。元スケバンなら後ろ暗い事をたんまりやってるハズ…。恩を仇で返すような所行だが、なりふり構ってはいられない。手だてを惜しんでは勝てぬ相手。

ひかる：「シラを切るのはこの写真を見てからにしたらどう？」

さゆり：「そ、それは！」

ひかる：「アンタの子分がまどかさんを中傷するビラを貼ってるところ。ぜぇ〜んぶアンタが仕組んだっていう動かない証拠だよ！」

さゆり：「ちっ…。バレちゃあしょーがないわね。ふ。そーよ、全てアタシが仕組んだこと。ホシジョのさゆり様がね」

ひかる：「録ったわ」

さゆり：「あ"ーー！！」

ひかる：「このテープをコピーしてばらまかれたくなかったら、まどかさんがヤリマンだとか、カツアゲしてるとか…根も葉もない噂を流すのは辞めるんだね！」

　その後の展開ときたら、思い出すだけでも腹の立つ！。たった独りで乗り込んできた檜山ひかるに対してさゆり側は３人。数的優位にありながら、写真とテープの強奪に失敗…。鮎川まどかの評判を落とし、自らの人気度を相対的に上げようとゆー（せこい）さゆりの陰謀は潰えたのだった。それだけに留まらず、檜山ひかるに自分の正体を知られ、首根っこを抑えられてしまった。

さゆり：「階段で転んじゃってぇ。さゆりってぇ、ドジですよねぇ〜♪」

　おかげで、今度は自分の正体がバレてしまうのではないかと気が気でなかった。チヤホヤとさゆりを崇め奉る青年達を煙に巻きつつ、檜山ひかるの存在に怯える毎日。

　嘆失悔苦茫滅恨！。
　呪！。鮎川まどか！。
　呪！。檜山ひかぁ〜る！。
　ていぃーーっ！

　結局…。檜山ひかるがさゆりとの取り決めを守ったというか、ひかるにとってバラす価値もない事だったというか、さゆりの正体はバレる事なく歳月は過ぎた。歳月は人に忘却をもたらすもの。が、唯一の敗戦と辛酸をなめさせられた檜山ひかると鮎川まどかへの遺恨はさゆりに深く刻まれ、そのトラウマがさゆりに変容をもたらした。単純な美男子ハントからは満足のゆく悦楽を得られなくなったのだ。必須オプションで女を泣かさねば疼きが収まらない…。ハンサム・ハンター改め、『ラヴァーズ・キラーさゆり』の誕生である。

　ターゲットは壊し泣かし甲斐のあるカップル。誰しもが認める公認のカップルを餌食にすることは、トラウマになってしまった“敗北”から再起し、自尊を回復する唯一無二の選択に思えた。壊しまくり泣かしまくり勝利に打ち震えた。

　が、最近…。
　何か足りないと空虚感を覚える自分だった。その原因は、解決策は未だ見つからない、と感じていた。

　さっきまでは。

　嘆失悔苦茫滅恨！：　たんしっかいくうぼうめっこん！。さゆりオリジナル呪詛のフレーズ。鮎川まどかと檜山ひかぁ〜るに対応。でも、効果はなかったよーです。エコエコアザラク…エコエコザメラク…（知ってる？）。