ジャンジャラジャンジャラァァァァ。
彼女に魂を抜かれた男は数知れず。清純派、純情、そんな存在に弱い男心を巧みに操って、せちがらい世間を悠々と泳いできた彼女。只今、物欲しげな視線を送るパチンカー共を後目に1人、大フィーバー敢行中。
<本台は調整中につき、他の台をご利用ください>
彼女に惚れたが運の尽き。恋の盲目を利用されているとも知らず、お釘に一方通行の愛を込め、チューンを施した男が1人。いかがなものでしょう?。哀れを誘うほどに頬を紅潮させ、彼女の傍らに歩み寄る。
「釘の締まりもお花の開きもイー感じ。でも、もっといっぱい出したいなぁ〜。そしたらぁ…んふ♪」
上目遣いのおねだり&胸の谷間見せ。男は妄想の領域で締まるだの開くだの禁断の場面を想像して卒倒した。後日、この男がいかな代償を支払い業務上横領に抵触する本件にオトシマエをつけたかは知る由もない。…さ、場面を変えよう。土曜の夜らしく景気良く。
「当クラブ自慢のホスト・オールスターズがあなた様をエスコートさせていただきます」
眉目秀麗な男達にかしずかれ、颯爽と入店する彼女。金は男から貢がせ男に使う。哲学だ。好き者だ。それでいいのか。とにもかくにも、目くるめく一時さえ自在に操っているかのような彼女。
「またのご来店をお待ちしております」
ふらり。足取りは酔いに任せた。ご機嫌である。ラブホテル居並ぶ繁華街の裏通りに歩み入った彼女は、まさにこれからってカップルを3組ほどすれ違いざまに採点する。
…彼女はまぁまぁだけど…彼氏がイマイチ……。うぇぇ…あんなオヤジと……。彼氏が童顔過ぎる…。うーん…もっとこう、…
「このまま連れ込む気なの?」
「病人を連れ込んだりしないって。おとなしく負ぶられてなさい」
…アタシを芯から燃えさせるようなカップルはいないのかしら…、ちょっとつついただけで、別れちゃうようなカップルじゃぁ、歯ごたえがないのよ…そーね、例えば…
「はい。わかりました…ごほっ。…ガーディアン様…こほっ」
「栄養つけなきゃ。何が食べたい?」
…あの女みたいな。泣かし甲斐のある女…そーいえば、どうしてるのかしらね。高校時代は檜山とかいう舎弟に邪魔されちゃったけど。硬派で鳴らしたあの女も、今じゃ彼氏を作ってよろしくやってるって噂。あの女の彼氏なら奪い甲斐ありそう…カッコイイ男だったらそのままマジで頂いちゃってもいーかも。…ま、でもそれは無いか。あの女の彼氏になるなんてよっぽどの馬鹿…
「あったかいモノ」
「あったかいモノか…。じゃ、じゃあ、春日恭介はいかがでしょう?」
…モノォー?!。
「柔らかいモノがいいなぁ…?」
「春日恭介は固いですか?」
…か、固いぃぃぃぃ!?。何が、ナニが固いっつーのよ?!。ええい、もっと近くに寄らないと聞こえないわ。
「エッチな事、考えてるでしょ?。こらっ」
「バレた?」
「開き直るな、この、超…こほっ。こほっ、ごほっ」
…『超エッチに開く』ですってぇぇぇぇぇっ!?(違うよ)。…それじゃあ、もうそーゆー関係なのね?。あんな事やこんな事、やっちゃってるワケね?。って事は…ふふ、ふわは
「ックシュン!」
彼女は同時に2人へ背を向けていた。行き交う他人から見れば、2人と彼女は3人一組の間柄に思える距離だった。酔いのせいで聴覚が遠くなり、興味のせいで距離感が無かった。彼女は素知らぬ態度で2人から歩み去る。2人は…
「風邪、流行ってるのかなぁ」
「あたし、流行には興味ないのに…」
「とか何とか言っちゃってぇ〜」
「なに…なんなの?」
「鮎川まどかは、今売り出し中の人気バンドのトラを断れなくって、いやだいやだと言いながら、目のやり場に困る衣装を着せられちゃって、季節はずれの野外ステージでギター弾き弾き、寒いのやせ我慢してたもんだから、ついでに風邪もひきましたとさ。あははは」
「うるさい。ぶつよ!」
「お、おいおい。背中で暴れないの」
気付いてない。というか、ふたりの世界にどっぷり浸っている。さっぱり微塵も彼女の存在に執着を示している気配は感じられない。ああ、よかった。
いーや。よくなーい。
…なんなのアノ、どの角度から見ても全くもって平均点以外の何者でもない彼氏は?。…そ、そうか!。鮎川まどかクラスの女をメロメロにするほどのテクニシャンなのね、きっと。すっごいお金持ちでお医者の卵とか…とにかく、フツーの男じゃ鮎川まどかの彼氏なんてつとまらないハズ。面白くなってきたじゃない?。これは、あの時の借りを返すチャンス…あたしの事、認めさせてやる…この…
広瀬さゆりの事をね。
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