“超常現象研究室”と札が掲げられた扉の前に少女は立っていた。彼女の足元まで廊下の蛍光灯が濡れた靴跡を光らせている。カラリと扉が横に動いて実験用の白衣を羽織った男性が顔を出した。
『おぉ、ひろみ。どうした?』
『おじさま。わたし…』
『さぁさぁ。そんな所に立ってないで中へ入りなさい。真っ白じゃないか』
『今日、おじさまのアパートに泊まっていっていい?』
『かまわんよ。ただし、お母上に電話をして許可をもらい、かつ、狭い汚いむさ苦しい霊が出るの四重苦に耐えられるならば、だがね?』
『じゃぁ、決定ね』
『まあ、そうだな。わはは』
『あのね』
『ん?』
『わたし失恋した』
『なんと!。ひろみを泣かすとは何処の馬の骨だ。おじさんが今からイリアンジャヤの奥地に伝わる秘法でもって呪詛してやろう。何かその相手にまつわる品を持っていないか?。それがあれば…』
少女のコートのポケットには学生証の手触りがあった。彼の学生証。彼女の指はポケットの中でその学生証をなぜた。迷いはなかった。めいっぱい明るく戯けて告げた。
『あっても渡さないもん♪』
そこまでが、せいいっぱいだった。
『そうか……………良い、恋をしたな。そうかそうか…』
恭介クン。バイバイ。
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