暗転した館内。少女からは2列前の席で隣り合う2つの肩上が見えた。1つは成長した彼。少女の計算で彼は高校2年生。その彼より歳上に見えるもう1つは─────。
「鮎川。無理するなって」
「へーきだってば。これは映画、映画なんだから」
あゆかわ。初めて聞く名前。その名を彼の口が唱えたとき、身体の芯からある感情がふつと沸いた。
ダマされているんだ。
恭介クンには悪いけど、ぜんぜんルックスの釣り合いがとれてない。
あのオンナに弄ばれているのね。
そう。きっとそう。彼の優しさにつけこんで。
《たしかめてみるがよい》
言われなくてもそうするわ。
映画の音声が邪魔だけどこの距離なら読める。
こういうことするのは不作法だって知ってる。
でも───。
恭介クンの目を覚まさせないと!
少女は瞼を伏せゆっくりと息を吐いた。一瞬だけ、スクリーンにノイズが走った。そのノイズに異変を感じた観客はおそらく誰1人としていない。
「やせ我慢しないでナインハーフを見ようよ」
「ダメ!。ひかるがせっかく用意してくれたんだから。今年こそ免疫つけ…………きゃぁっ!」
「あ、鮎川…」
「え、映画にビックリしただけよ。別に…その…」
「得しちゃったな。ラッキー♪」
「……………エッチ!」
「いたた。でも、なかなかカワイイ叫び声だったよ」
「もぅ、からかわないでよ。これでも必死なん……っ!!」
「強情だなぁ。ひかるちゃんにはちゃんと観たって言っとくからさ」
「ぁ…ぁ…ダメ、寝ちゃダメ……ぁ…きゃぁぁぁっ!」
《もうよいであろう?》
…………。
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