彼の住所へと続く道。少女は男物のごつい傘を盾にして、雪吹きつける冬の中を前進していた。
《引き返すがよい》
イヤ。
《もうよい。オマエの役目は終わったのじゃ》
どうして?。まだよ。
やり残したことがあるわ。
これはわたしの運命で、恭介クンの運命でもあるの。
《これからは学業に専念するんじゃ》
確かに成績は下がった。でも、悲観する程じゃない。
《追いかけてはならぬ》
たった一言でいいの。
友達としてお別れを言いたいだけよ。
それくらいいいじゃない。
《戒めに逆らうつもりか。心を奪っても、奪われてもならん!。微々たりとも気づかれてはならぬのじゃ!!》
わかってるわよ!!
そんなこと…
確実だった。彼の家に近づくにつれ雪も風も強くなっていた。歩みを拒み、はねつけるように。けれど、寒さなど微塵も感じていなかった。焼けつくほど彼のことで胸はいっぱいになっていた。もう彼を友達として見送れない自分になっている事が。
「恭介クン…」
傘を投げ捨て、コートのポケットから彼の学生証を取り出した。それをキュッと握ると、少女の身体を中心にし、周囲の雪が螺旋の渦を巻きながら、音もなく舞いあがった────。
《なにをする!》
お願い!
時間よ戻って!
あの日の朝まで戻って!
雪の渦がかき消えたとき、少女の姿はそこになかった。
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