彼のおマヌケぶりを密かに笑ってはいるけれど、同時に誰よりも彼を応援しているのは自分───きっと、このコメディは疲労感と空虚感だけを残すようなスラップスティック作品ではない。少女にとって2学期は疲れはしたものの、少なからず充実を感じる日が増えていた。もちろん感情の起伏はあった。運命も捨てたもんじゃないな、と思ってみたり、この日々がずっと続くのだろうかと考えると、やはり呪ってみたりもした。そして、秋が深まり、冬が訪れ、期末試験を終えた頃、その日はやってきたのだ。
「いっひっひっひ」
どうしてこういう輩はこういう人気(ひとけ)のない胡散臭い空き地が好きなのかしら。
『おかねだよ、おかねー。もってんだろ?。優柔不断そーなツラしやがって、はやく出さないとチンチクリンな彼女がどーなっちゃっても知らないよぉ?。けけ」
チンチクリンは好きでやってるんじゃない。
この運命を一番、誰よりも恨んでいるのは自分なの。
『おおっと。逃がさねぇ。楽しもーぜ、お嬢ちゃん!』
いいわ。楽しみましょう。
わたしは誰かさんみたいに出し惜しみなんてしない。
生まれてきた事を後悔するって、どれほどつらいか。
おしえてア・ゲ・ル。
『や、やめろ!。その娘にて、て、手をだすな!』
ふふ。ありがと。でもいいの。
こんなヤツラわたしに任せておいて。
それがわたしの役目なの。
キミは目撃してわたしの役目は終わる。
さよならだね。恭介クン。
結構、楽しかったヨ。
『ヒロ!。いままで…ごめん!』
なに謝ってるの?
ちょっと、何す…
ダメ───────。
閃光が走った。少女には、今まで体験したことのない強烈な輝きだった。盛夏の熱風に似た温度が駆け抜けた。少女が目眩から我を取り戻したとき、周囲には焦げた匂いが充満していた。少女と暴漢達の間の地面が直径5メートルほどの正円形に陥没し、黒く、深く、何もかも飲み込んでしまいそうな不気味さで、くすぶっていた。
『ひぃぃ、エイリアンだ。逃げろーー!』
暴漢達が放り捨てたナイフはひしゃげていた。まるで、ぐしゃぐしゃな狂気をモチーフにした芸術作品のように。すべて彼の仕業だった。荒く肩で呼吸をしている。彼、春日恭介は─────。
『お、オレ…実は超』
『すっごい雷だったね!。びっくりしたぁ〜♪』
ウソ。
『へ?』
『突発性の雷だねきっと。うん!』
『あ、あぁ…すごい、すごい雷だったなー。なは、なはははは』
ウソばっかり。
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