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「その少女。かげろうのむこうで side A」

Chapter<5:少女の疲れる毎日>

 夏休み直前という異例の時期に少年が転校してきたため、1学期中ほとんど顔をあわせずに済んだ。その事は少女にとって幸運だった。けれど時間は止められない。無情に夏休みは過ぎ、憂鬱極まりない2学期が始まった。

 『このアミダくじ全部当たりじゃないか。いかさまだ!』

 『班長は恭介クンにけってー』

 『ちょっと待てよ。班長なんてオレ絶対ヤだからな!』

 『クラスにとけ込むいーチャンスだよ。あ!。それともぉ〜』

 『な、なんだよ…』

 『アノ事、バラしちゃっていーのかなー?』

 『え!?。なな、何の事だ!』

 『夏休みの間にボクと恭介クンがデキちゃったってゆーこと♪』

 『な!』

 『みなさーん。聞いてくださーい』

 『やや、やめろ!。そんな根も葉もない。みんなが誤解したらどーするんだ!』

 『誤解なんてヒドイ…ヒドイよ。こぉ〜んなに愛しあってるのにぃ♪』

 『うわぁ!。は、離れろっ。違うんだ。みんな。誤解だよ!』

 帰宅するとどっと疲れが出た。来る日も来る日も演じ続けなければならない自分に嫌気がさした。けれど、学校での彼の反応を思い出せば、ふふと吹き出す自分に気がついた。

 『笑うな!。もとはといえばヒロのせいじゃないか!』

 たとえば、エッチな漫画を学校へ持ってこれる度胸があるか、とけしかけてみた。彼は冗談を真に受け、持ち物検査がある日に約束のものをカバンに忍ばせてきて検挙されるマヌケぶり。罰として坊主刈りのオマケがついた。

 『これ英語のノートのお礼。…か、勘違いするなよ。友達としてだからな!』

 あるいは、彼の持ってなさそうなアーティストのアルバム名を口にしてお礼を催促してみた。彼はわざわざレンタルレコード屋で借りダビングしてきてくれた。律儀にインデックス用のメモを添えて。

 『え?。いいの?。さ、サンキュー』

 11月15日には、プレゼントを与えてみた。中身は友情という建前の取るに足らない物。それを手に取ったとき彼は───。髪が短く、黒縁の眼鏡をかけて、しとやかさのカケラもなく、彼の理想とはほど遠い存在にズケズケと踏み込まれる毎日───それなのに、彼は照れ隠しのように、使い慣れていない感謝の言葉をうわずらせていた。

 確信できた。彼には学生証を拾わせてコンタクトを取ろうなんて芸当はできない。彼はおっちょこちょいで、傍にいるのが恥ずかしくなるほど素直で、底抜けにお人好しな存在。

 『か、革命だってぇ?。うっわぁ〜やられた。また大貧民だよ…』

 ふふ。
 ──────使えばいいのに。

 

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 ヒロ: 「杉」と呼び捨てでもよかったのですが、それじゃあんまりなので。異性として意識しない存在ならば、名前のあだ名呼びは許容という判断です。

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