その日の朝は珍しい生き物の気持ちがわかった気がした。
で、結論。
───────人が寄ってくるだけはるかにマシ。
『杉。チカラになるよ。先生に相談してくれないか?』
イヤだ。
説明なんかしたところで誰もわかるハズがない。
『校内ミスコン運営委員会としてはですね、仮にもグランプリ受賞者であるあなたがそのような…』
かまわない。
昨日までの自分は捨てた。
それに学内ミス・コンテストなんて立候補した覚えはない。
無口な自分のせいもあるけど、勝手に祭り上げられただけ。
『ひ、ヒロミン!。いいい、一体どーなされたのですその変わり果てたお姿はっ!。長く麗しい髪、愛くるしい小悪魔の瞳をいずこへお忘れになられたのです?。あぁぁこれは悪夢だ!。オレ達、親衛隊はどうすればいいんだよー!!』
好きにすれば?
関係ないもの。
それにそのヒロミンって呼び方キライ。
『ひろみったらかっわいー。まるで、男の子みたい』
よし。
とにかく異性として好意を抱かれてはいけないの。
その可能性をできる限り摘み取って、
わたしはカレと出逢わなければならない。
そういう運命。
教室に入ると昨日の朝のアイツを探した。窓際の一番後ろの席に座ったアイツを発見。若干の取り巻きに囲まれ、根ほり葉ほり探られている様子。つかつかと歩み、目の前に立った。
『恭介クンはじめまして!。ボクは杉ひろみ。この学校でわからない事があったら何でも訊いてね。あ、それから、ボクのことはヒロって呼んでくれていいよ』
『え?。キミが杉…ひろみ…さん?。で、でも確か…髪が長くってミスに選ばれたって…あ、あれぇ?。』
彼はしばらく酸素の足りない水槽で溺れかけた金魚みたいに口をパクパクさせていた。その横面を吹き出しの中のクエスチョンマークごと思いきり張り飛ばしてやりたかった。
『ひ、ヒロさん。あの、昨日の朝なんだけど。階段から降って…、きてなんかいないよね。なは、なはははは』
『今が初対面だよ。寝言は授業中に言いたまえ。恭介クン!』
転校早々、学生証を拾わせてコンタクトを取ろーなんてしらじらしいのよ、学生証なら捨ててやったわ、と心の中で言ってやった。昨日の朝のハプニングの相手が不明となれば、彼はその相手を捜すかも知れない、そして見つからずに残念がるかも知れない。ささやかな仕返しのつもりだった。
わたしの過去を探そうとしても無駄。
もう手は打ってあるの。
あなたは永遠にあの娘には逢えない。
ふん。
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