『ホントにホントにホントにホントにホントぉぉぉぉぉに、切っちゃっていいの?』
行きつけの美容師さんは、何度も何度も確かめ、やはり同じくらいの数の溜息を零した。カットの間、瞳はずっと伏せていた。床へ落ちる髪の毛のかすかな音が聞こえるたび、それまでの自分が壊れてゆく気がした。鏡に写っている自分を想像したら、頬が濡れてしまった。当然のように美容師さんは慌てた。そして、自分はまた運命を呪った。
『ごめんね。お望みどおりアナーキッシュボムでも似合う、とは思うんだけど…これで勘弁して。ね?』
ああ余計な事を…。
またやらなければならないことが増えた。
『とびっきり野暮な黒縁ですか?。うーん。それはそれでアヴァンギャルドなお姿になるかと思いますが、お勧めできませんねぇ。ダテ眼鏡をお選びになるときは“小粋なお洒落”がポイントです。こちらのパール貝を埋め込んだオレンジのフレームはいかがです?。あなた様をよりポップでキュートに演出し』
いいの。
ダッサダサのをください。
|