帝都に潜入した3人は闇の司祭コマーツの首1つをめざし、“決別の回廊”を突き進んだ。が、散り散りにはぐれてしまう。コマーツの罠?。それに気付いたとき、主人公はコマーツが座する祭壇の下に辿り着いていた。100段はあるだろうと思える階段を祭壇めがけて一気に駆け登る。行く手を遮るコマーツの護衛兵。
主人公:『ええい、邪魔だ!。ティタムウィンド!(しゅばばっ)』
気が触れた野獣のよう、真空がコマーツの護衛兵を片っ端から切り裂いた。今日の術はひと味違う。残るは───玉座の肘掛けに片肘を付き、頬杖に乗せた青白い顔で薄く笑っている───コマーツただ1人。コイツを倒してクワスガットへ3人一緒に帰るのだ。いくぞ。炎系最強魔法を食らえっ。
主人公:『メルトフレイム!(ごほぉぉぉ)』
直撃───!。
覚えた恐怖を余さず見抜かれている───結氷した湖の氷の直下で息絶えた遺体から送られてくるような視線。自らアンデッドとなった者が放つ零度をまとい、コマーツは微動だにしていなかった。
闇の司祭コマーツ:『戻ってきたか…待ちわびたぞ』
主人公:『何?。どういうことだ!』
闇の司祭コマーツ:『まだわからぬのか、キョースケ』
主人公:『キョースケ?』
闇の司祭コマーツ:『オマエの名だよ。わたしの飼い猫…毛艶の良い黒猫だったオマエのな…』
主人公:『飼い猫!?。黒猫?。オレが?。戯れ言を言うな!』
闇の司祭コマーツ:『ふふ。見よう見まねで禁呪ゲノマトランスまで覚えていようとは…猫の分際で見上げた才覚よ。もっとも、わたしの飼い猫ならばそのくらいの器量があって当然だがな…』
主人公:『何を言う!。オレは人間だ!。記憶が少し…途切れているだけだ!』
闇の司祭コマーツ:『ならば、その記憶を繋いでやろう。ゲノマトランスは生命の理を操り、生き物を他の生き物へと形態変化させる禁呪。オマエは、わたしが創った“似て非なる人間”に再度ゲノマトランスをかけ元の姿へ戻した事を忘れたか?』
主人公:『っ!!』
闇の司祭コマーツ:『ふはは。アヤツ等と同じように、わたしがゲノマトランスで、オマエを人間へと形態変化させてやったのだ。隠れ潜む反乱分子を捜すためにな。オマエ自身が“鈴”だったのだよ。うかつだったのは、形態変化の際、オマエが記憶をなくし、マインドコントロールをかける前に逃げ出したこと。オマエは外に出たがる猫だったからな。楽しかったか?。外の世界は?』
主人公:『そ、そんな事、あるワケ…オレが帝国兵と同じ“似て非なる人間”だなんて…違う。オレは!』
闇の司祭コマーツ:『まあよい。オマエは素晴らしい獲物を捕ってきてくれた。感謝するぞ。見よ!』
主人公:『マドーカ?。さ、探したんだよ!。さぁ、こっちへ…』
剣士マドーカ:『…………………………っ!(ぶんっ)』
主人公:『な!。何を!?。操られているのか?』
闇の司祭コマーツ:『これほどの剣技をもった人形はなかなか手に入らん…素晴らしい…そして、なにより美しい…』
主人公:『目を覚ませ!。マドーカ!。オレだ!。』
闇の司祭コマーツ:『この娘はもう目を覚まさぬよ。それもこれも、オマエ自身がこの娘にかけた術のせい…』
主人公:『術!?。オレはマドーカに術なんてかけてない!』
闇の司祭コマーツ:『永遠の闇へ落とす前に教えてやろう。オマエがこの娘にかけた術はファイアーに反応する“ニコチノイド・ジェラシー”だ』
主人公:『…………………あ…』
闇の司祭コマーツ:『わたしの飼い猫だったオマエにはわかるな?。ニコチノイド・ジェラシーはじわじわと精神を蝕む、遅効性の精神浸食魔法…』
主人公:『な、なんて…なんて事だ…』
闇の司祭コマーツ:『この娘を見よ。嫉妬に狂うその身を責め、呪い、そして魂を弱らせた。魂の迷いは剣の迷い。オマエより一足早くここに辿り着いたこの娘は、わたしの術に散ったのだ。今はネクロマンスとマインドコントロールによって生前の身体が動いているだけ…』
主人公:『嘘…嘘だ…………』
闇の司祭コマーツ:『ふはははは。涙を流すか?。猫のオマエが?。愛だ正義だのに心を囚われ不埒を働きたいか?。それほどに人間でありたいか?。ならば、人間らしく償いをするがいい。この娘の剣にかかって果てるのだ。娘よ……………殺れ!』
剣士マドーカ:『…………………………』
主人公:『ま、マドーカやめろ!。………や…いや、…いいんだ…キミの手にかかるなら…オレの…オレのせいだ…』
剣士マドーカ:『…………………………っ!(ざしゅっ)』
闇の司祭コマーツ:『ぐはぁっ!。な、な、な……ぐふっ(ヒーリン)』
剣士マドーカ:『アタシが…癒しの剣の使い手だって事…忘れてもらっちゃ……困るのよね……』
主人公:『マドーカ、正気に戻…何を?。…何をする!』
剣士マドーカ:『こうするしかないの……………うぐっ』
主人公:『バカ!。ああ、あぁぁぁああ…なんて事を…』
剣士マドーカ:『…楽しかった…生きてる感じがした。でも、アタシ弱かった…耐えられなかったの。ごめん。ヒカールの事、守ってあげてね。じゃ、…バイバイ………好きだったよ…』
主人公:『マドーカ!。マドーカ!。あ、ああ、うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ』
アンデッドの魂さえも癒す聖なる刃───癒しの剣。切って欲しかったのは無力であさはかな自分。猫だった自分を忘れ、人間のつもりでいた自分。あの時、リヒドの丘で───遠い猫の記憶が凛と鳴る。まだ狂気に犯される前のコマーツが叫んでいた、何故できないのだ、もう一度あの時間へ戻してくれ、妻を返してくれ。───そうだ、あの呪文。時間を越えその時点の自分に現在の自分の魂を重ね渡ってゆく禁呪。あれは、あれは、あれは───。
主人公:『雪…か…』
ワープアウトしたリヒドの丘では静かに雪が降り積もっていた。雄々しく生気を放つ聖リヒドの大樹さえ凍えて見えた。主人公はあの日マドーカが倒れ込んだ場所へと新雪を踏みしめ歩を進める。拗ねたような瞳でおねだりをする彼女ともう一度逢えるのならば。瞳を閉じ、深く呼吸を溜め───発動。
主人公:『禁呪!。フェイズブレイク!』
その身体にもはや生気はない。主人公の身体が雪の中に崩れ落ちた。僅かに残っていた生命力を踏み台にして飛翔したのだ。
彼の魂は───。
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