「ついたー?」
「…………い、今やってるとこー!」
>>び、びっくりしました…(どっきんどっきん)。まなみの声が扉越しに聞こえたものですから…………あ。みなさんこんにちは。春日恭介、21歳です。現在我が家では、年の瀬を迎え、新たな気持ちで来年を迎えるための大掃除をしているところで。残り少ない土曜日、やり残したことも幾つかあり、こういう行事は手際よく、さっさと終わらせてしまいたい、のですが。
「大変だったら、手伝おうかー?」
「い、いや!。ひとりでできるよー!」
>>僕が蛍光灯の交換をそっちのけで読みふけっていたのは、くるみの机に重ねてあった原稿の何枚目かなのです。これが、何の原稿かといいますと───。
くるみ: 『はやくはやくはやくはやくはやく…』
まなみ: 『くるみちゃん、大掃除抜けちゃってもいいよ。お兄ちゃんとわたしで何とかなるから…ど、どうしたの?』
くるみ: 『プリントアウトしてから気が付いちゃって、ページ番号ふってなくって、だから、もう一回、全部プリントアウトし直しで、このプリンタ遅くって……ああーん、時間がっ!』
まなみ: 『落ち着いて、くるみちゃん!。だいじょうぶ!。時間はまだあるわっ!』
恭: 『どうしたんだ、2人とも?』
くるみ: 『あんもぉ、とろいわねっ!。この、へなちょこプリンタ!。きーっ!』
まなみ: 『慌てちゃダメ!。そう!。電話よ!。念のために担当の人へ電話いれとくのよっ!』
くるみ: 『でんわでんわでんわでんわ…』
恭: 『お前達。何をそんなに慌ててるんだ?』
まなみ: 『くるみちゃん!。プリントアウト終わったみたいよ!』
くるみ: 『封筒に入れといてー!。あでも、絶対に読まないで!。絶対絶対だよ!』
まなみ: 『読んじゃダメ、封筒に入れろ、っか…よーし!(ぎゅい〜ん)』
恭: 『おーい、君たちー』
くるみ: 『電話完了っ!。まなみちゃん!。入れといてくれた!?』
まなみ: 『バッチリ!。読まないで入れといたわ!。はい、ケータイ持って!』
くるみ: 『まなみちゃん、愛してるぅ〜。ちゃ!。行ってくるね!』
まなみ: 『頑張るのよ!』
くるみ: 『はいなー』
まなみ: 『ふぅ。行った行った…ん?。お兄ちゃん、何ぼーっと立ってるの?』
>>まなみが言うには、くるみがパソコンの練習がてら書いていた文章を八田に見せたところ、これは面白いって事になり、八田の紹介でゲームのシナリオを書いていた、そのリミットが今日であり、にもかかわらず、担当さんとの待ち合わせに間に合う時間ぎりぎりまで手間取ってしまった、だから、慌ててすっ飛んでったのよ、という事なのです。
恭: 『くるみがゲームのシナリオねぇ…』
>>くるみに文才があるかどうかは別として、“あの”くるみが書いたシナリオとやらが一体どんな代物なのか…兄として家族として春日恭介、興味津々なワケでして。
「じゃあ、お願いねー!。今日交換しないと、時期を逃しちゃうからー!。そっちが終わったら、キッチンの方もねー!」
「わかってるー!」
>>蛍光灯を交換するため、妹たちの部屋に入ったら、くるみの机の上にページ番号のプリントアウトに失敗した分の原稿が積んであり。妹の机をあさるなんて、読みたいという誘惑に勝てなかったなんて…最低な兄です。
>>え?。謝っても手遅れだから先を読め?。そ、そうですよね。蛍光灯なんかいつでも交換できるワケですから。じゃあ、扉に鍵などかけて……。
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