アパートの扉を開けたレイジは部屋の様子に絶句していた。まなみは冷静な表情。
「一体、どうなってるんだ…??。ゴホッ」
「レイジさん。少し横になって。お薬飲みましょう…」
「うん。そうする。にしても…どこに寝ようかな。ホントにお花畑になっちまった…」
「今、よけます。」
極彩色の蝶の群が飛び交うように花が乱舞した。その色めきを掴もうとジャニスが嬉々として飛び跳ねている。超人的な能力による演出だった───心を決めたオンナの。運命を変えてしまう事が良いことかどうか、それはわからない。だから、彼女はずっと迷っていた。けれど、今日のライブで心は決まった。彼に歌って欲しい。これからも、ずっとずっと、歌いつづけて欲しい。
「あの、わたし実は…」
「天使だろ」
いっそう深い瞳だった。まなみは魂を根こそぎ吸い込まれてしまった事を感じ取ることすらできなかった。
「俺にはわかってる。キミはとびきり物好きな天使なんだ。俺みたいなヤツに傘をさしかけてくれるなんて、サ」
「レイジさん…」
「…………天使さん。眼鏡を奪っていいかい?」
「はい…」
まなみは瞳を伏せ顔を上げた。レイジの指がそっと眼鏡を外したのがわかった。2人は身体を寄せ互いの両腕を互いの背中へ廻した。レイジの手にはまなみの眼鏡があった。まなみの手にはクリスタルがあった。そして、くちびるが重なった瞬間、クリスタルから部屋いっぱいに光が溢れ、何もかもがその輝きに包まれ、この上ない煌めきへと眩んだのだ。
───神様。その時の、わたしは傲慢だったと思います。何処かで期待していたんです。レイジさん、忘れてしまうなら…、わたしの事を忘れて欲しい、って。独り占めしようとしていたんです…レイジさんのこと。
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