「というわけで今晩あたり尾行(つけ)てみようと思ってるんだけど…」
「……………。」
鮎川まどかは回想をしていた。つい、数日前の夜の出来事。
『こんばんは。まなみちゃん』
『まどかさん!』
『夜のコインランドリーでバッタリなんて、アタシ達2人して色気ないネ』
『そそ、そーですね、あは、あはは』
『アタシは乾燥機が故障しちゃったの。すぐ乾かさないと洗い直しになっちゃうし、そういえば、近所にコインランドリーがあったな、って』
『そ、そうなんですか…最近、雨続きですものね…』
『あら?。ソマリ?』
『ジャニスさんです。飼い主さんの都合でお預かりしてるんです』
『綺麗な毛並みね。良家のお嬢様みたい』
『台風の夜に今の飼い主さんに拾われたそうなんです。その時は猫だかボロ雑巾だか区別が付かないくらいボロボロだったそうで…』
『そうなの…。あ、それ。たたむの手伝うわ』
まなみが乾燥ドラムから回収した衣類の山へまどかが手を伸ばす。まどかの指が触れようとした瞬間、衣類の傍らで縫いぐるみのように大人しく鎮座していたジャニスがいきなり殺気だった。全身の毛を逆立てまどかを威嚇している。彼女の手は停止した。
『す、すみません。ジャニスさん、今終わりますからね』
まなみはたたみ終えていない衣類を手提げ袋へ流し込んだ。下着、Tシャツ、靴下…。それらは、若い男性モノであったけれど、まどかが知っている恭介のモノではなかった。
『あの、まどかさん。この事、内緒にしておいてくれませんか…』
『う、うん…』
『じゃ、わたしはこれで』
『あ。まなみちゃん…』
鮎川まどかの回想を春日恭介が遮った。
「どうかした?」
「ん?。あぁ、…それでもし、まなみちゃんが男の人と逢っていたらどうするの?」
「相手次第だけど、あんまりヘンなヤツだったら」
「別れさせちゃう?」
「どうしようか?」
「はい?」
「まなみだって年頃だし、それに、言えない事情があるのかなぁ、と」
「まなみちゃんを信じてるのね?。エライエライ」
「あーでも、悪いオトコに引っかかっていたりしたら…どうしよ。尾行るべきか尾行けざるべきか、悩むなぁ…」
「兄として妹のお付き合いしている男性を色眼鏡で見ちゃうのが不本意なら、アタシが姉の視点で見てあげようか?。厳しーく採点してあげる」
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