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Parallel Novel
「カカオ・セレナーデ」
Chapter<5:深度はホット・チョコ!まどかのライセンス>

 意識空間には深度がある。
 浅い深度は時間的に現在に近い空間。深度が深まるにつれて時間は過去に遡るってわけ。くるみの意識空間にダイブしたときは目標の深度が現在ジャストだったから、即、到達した。が、今度のダイブはもっと過去、深いところまで潜行しなければならない。

 暗い深海から浮上しつつ発光する泡のように、恭介の記憶ともいえる映像が現れては、過ぎてゆく。その映像を手がかりに、少年が住めそうな深度を見つけてあげればよい。が、まどかはその選択をしなかった。

 恭介の意識空間へダイブする瞬間から、まどかは両目を固く閉じていた。目的の深度に到達するまで恭介の記憶映像を見るつもりはなかった。自分の知らない春日恭介を盗み見てしまう行為。それは、恋人である自分でも許されない事。

 「なんとかなるでしょ」

 と、飛び込んだものの、どうやって探せばいい?。しかし、何故か安心していた。ここは恭介の中。そんな理由かも知れない。

…………この辺は、エッチな場面のオンパレードだったりして…あ、何考えてるんだろ…アタシってば……

 深度の浅い意識空間の映像は恭介とエッチしちゃったその後の時間軸にあるからにして…そーゆー場面(わぁ)がてんこ盛りぃ〜だったりするのに違いない。恭介のヤツ!。

 「…なんにも見えない」

 「せ、青少年は禁止!」

 青少年でなくても禁止です。
 まどかは少年の顔を胸に抱え込み、彼の視界も塞いでいた。
 自分も見ないが、彼にも見せられないもん!。

……いけない、いけない…意識を集中させなきゃ……ん?

 潜行するうちにまどかは、周囲の温度変化と規則性に気付いたのだ。暖かくなったり肌寒くなったり、恭介の意識空間はまるで、彼が経験してきた季節を繰り返しているようだった。

 直感!

 記憶を遡るように、この季節を数えて潜行してゆけばいい。恭介が導いてくれている?。目指す深度は…。

…………そろそろ、かな…

 ホットチョコレートを恭介に出した経験。まどかはその深度まで潜るつもりだった。でも、あの日の事を、恭介は記憶に留めているだろうか?。運命を受け入れる時ってこんな感覚。目蓋を通して強い光源が迫ってくるのを感じた。

…何が見えても受け止めなければ …それがアタシのライセンス…恐れてはダメ…

 くっと瞳を見開いた。

…アタシの横顔、照れてる…
… マスター…帽子を取りに戻った…
… ひか……る……
…ぼろぼろのマフラー……

 ビンゴ!!

 「沈降停止!。固定作業を始めて!」

 周囲の漠然とした空間がカカオ・ジャングルへと具現化されてゆく………………

 まどかは現実世界に1枚の絵を描き残してきた。くるみの意識空間で見たカカオ・ジャングルの絵。、まなみとくるみが固定作業をする時のイメージになればと思ったのだ。彼女たちに明確なイメージを与えておき、くるみの意識空間にあったカカオ・ジャングルと同等の世界を創出してもらう手はずだった。少年も同じ世界の方が住み心地がよいだろう。

 が、ここは恭介の意識空間。
 その事が影響した、としか思えない情景がまどかの眼前に展開していた……………

 大 き な    木
      ブ ラ  ン    コ
           ベ   ン   チ
                か  い  だ   ん

 …全てカカオで出来ているけど、間違いようのない場所。
 まどかと恭介、2人だけの、約束の場所。

 「鮎川はボクの事、ずっと忘れずにいてくれたんだね」

 少年は確かに春日恭介だった。教えたわけでもないのにまどかの名字を言い当てた。その時代の恭介がまどかをそう呼んでいたように。

 あ・ゆ・か・わ。

 恭介の記憶が意志を持ったような少年。恭介の意識空間に固定されることで、彼の存在は春日恭介の一部へと同化してゆく。春日恭介と共に生き続ける存在になるのだった。甘酸っぱい青春の一コマとして。

 「…そうよ、春日くん。また来年の2月14日に逢いましょう」

 鮎川まどかとも一緒に。

 

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