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Parallel Novel
「カカオ・セレナーデ」
Chapter<3:ちょっこれいと。ほっ溶けないっと。>

 カカオ・ジャングルを流れる小さなせせらぎ。
 まどかと少年は素足を突っ込んで、川縁に腰を下ろしていた。空が木々の遮蔽から解放され、川面に太陽が反射している。太陽…やっぱりカカオで出来ている?。でも、まどかの足とパシャパシャ戯れる水は本物のようだった。咽が渇いたな…彼女の思考が反映されたのかも知れない。ビールを想像していたら良かった、かな?

 カカオの粉は確保した。
 だから、慌ててこの世界を去る必要もなし。
 まどかは目的を達してなお、不条理な世界に留まっている自分に、そう理由を付けてみた。 でも、理由はそれだけじゃない…わかってる。

 少年はチョコを覆う包装を不器用な手つきで開き始めた。まどかの良ぉ〜く知っている誰かさんの手つき。大切にしようと思うあまりに不器用になってしまう手つき。

 チョコは…やはり、溶けていた。が、『Kyousuke』とホワイトチョコでイニシャルした部分は、『ここに何か描いてあったな』と察しの付く程度に、ほどよく?半溶けだった。突っ返されちゃう?。…だけど、少年はチョコの素性を疑う素振りすら見せない。待ち続けた運命を今、遂げるように頬張った。

 「おいしい?」

 少年はコクリとうなずいた。

 「こぉんな、カカオいっぱいの世界に住んでいるのに、チョコ貰うのが初めてだなんて。おっかしいの」

 少年もまどかにつられて笑い零した。なのに、これで思い残すことは何もない…せせらぎに向かって呟いた。

 「何言ってんのよ。あなたはまだまだ、これから…」

 確かに。
 少年が現実を生きる人間であったなら。
 が、違う。
 失言を悔やむまどかに、少年は柔らかく微笑み返した。

 この世界はやがて消えてしまう。そのとき僕も消えてしまう。だから、僕はそれまでの存在。不条理な世界の住人なのに、思い付きが形になっただけの存在なのに、少年の説明は理に叶っていた。彼は赤い麦わら帽子を目深に被り直し、まどかの視線を避けるように顔を背けた。

…………この少年はこの世界では生きてゆけない。期せずして消滅する運命。しかも、彼はそれを承知しているんだわ。

 まどかは少年の日焼けした肩を抱き寄せていた。
 切なく甘酸っぱい痺れが鼻腔の奥を走った気がした。

 「ね、少年?。アタシと一緒に行かない?。あなたが暮らすのにピッタリの場所、知ってるんだ」

 まどかは閃いたのだ。この少年が生きてゆける場所。春日恭介の意識空間ならば…と。

 グッと力を込めて少年を抱きしめた。まどかの豊かな双丘が少年の顔を圧迫して彼は、気を失ったかも知れない。

 「まなみちゃん!。サルベージして!」

 まどかと少年が去った後、ジャングルには最期のスコールが訪れ、一切が霧消した。

 

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