春日あかねは駅前のデパート内のエスカレーターに乗っている。情報源は今春、あろう事か大学に現役合格してしまった春日くるみ。先手を打って恭介が口止めをしていた。しかーし、『甘味処に誘い込めばイ・チ・コ・ロ♪』。ちょろいもんよ。わはは。
あかねがエスカレーターで登りつめた階。匂う…見渡した先、ジューンブライドを来月に控えた宝飾コーナー。ゴールイン間近のカップル………にまざって大概、挙動不審な超能力者が1人はいるものである。
「誕生日のプレゼントだろ。まどかちゃんの」
「わ!。あかね!」
「パンダの縫いぐるみでカモフラージュしたからって、このあかねさんの目は誤魔化せないよ(透視だけど)。ショーケース覗き込んでないで、客寄せのバイトらしく、ちゃんと働きなさい、ちゃんと!」
「ちょっと、見てただけだって」
「っとに、嘘の下手なヤツね。エメラルドよ。ほら、左上の緑色したヤツ」
緑色→エメラルド→5月の誕生石→まどかの誕生日のプレゼント。あまりにも一直線な回答を逆算しつつ、色とりどりの風船を繋いだ紐束を握りしめたまま、ショーケースの中で神秘的な緑色を放つエメラルドに魂を吸い込まれそうなパンダが1頭。こら、サボルなってば。
「うわっ。…やっぱ手が届かないなぁ…」
「まぁ、無理するなって事でしょ。そーだ。恭介にもう1つ、いー事教えてあげる。スペシャルニュースだよ。喜べ!」
あかねは先刻のいきさつを恭介に教えるのだった。そ。すべて早川ミツルの罠。わかった?。わかったらさっさと…
「まどかには黙っていてくれ。頼む、あかね」
「なぁに言ってんのよ。だからぁ、全部、早川ミツルの…」
パンダの中身は「あぁ〜ん、パンダちゃんだぁ。風船ちょ〜だい♪」とねだる女児の手にオレンジ色の風船を繋いだ紐を握らせると、およそ本物のパンダが言いそうもない台詞で念を押した。
「じゃあな。頼んだぞ。絶対だぞ!」
「恭介。アンタ…」
……まどかちゃん心配してる。宝石も欲しがってない。わかるだろ?。いまさら見栄張ったってしょーがないじゃん。それに、3日バイトしたくらいじゃ、大したモン買えないよ……………
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