翌日。
鮎川まどかと春日あかねは大学近くのシーフード・レストランでランチをしているところ。他の客がいないバルコニーのテーブルに腰掛けた2人。穏やかな日差しを受け、真っ白いテーブルクロスの陰が、5月の微風でフロアに揺れている。本日のメインディッシュはとーぜん!今日も大学に姿を見せない春日恭介の料理法。
「2日も休んでアイツ、まどかちゃんに電話の1本も入れられないのかしら。ったく、ズボラにもほどがあるわ」
「…っとに!。(グサッ)」
「あはは。お仕置きはそのカルパッチョみたいに、グッサリ串刺しね?」
「ううん、こんなモンじゃないわ。こうよ。(グリッ)」
あかねにはまどかの仕草が可愛らしく思えた。まどかの手に握られたフォークが皿と摩擦音を立て、あかねの目の前で不作法をはたらいている…戯けた仕草…それは、まどかがあかねに少なからず、心を許している証なのだ。あかねは過去、まどかが食事のマナーを破戒する場面に遭遇したことがなかったし、今の今まで想像もつかなかった。カルパッチョのタコが春日恭介に見えてしまう、微笑ましい…まどかの不作法。
「ほーぉぇ(そーよね)。もぁ(まあ)、はやはぁひふぅひはいぁ(早川ミツルみたいな)、ひはほほぉひへひへぉ(下心ミエミエの)、…もぐっ。マメ男ってのよりはぁ、断然マシだけど」
「はやはぁひふぅ?(早川ミツル?)」
「そう。先週、正門のところで声かけられたんだ。ペッカペカのBMWの助手席に、まどかちゃんくらい髪が長くって、サラサラ髪のぉ…なんたらとか言う新人のアイドル乗せちゃってさ。とっかえひっかえマメなヤツ。んで、キミは春日のいとこだろ?、恭介は何処にいる?、いいプロポーションしてるじゃないか、深夜番組出てみない?、なんて、粉かけてきたのよ」
「相変わらずの、スケコマシか…」
「そ。だから、ドアに蹴りを入れてやったわ。ベッコリへこんで、ざまーみろ!」
共通の敵?を見いだし、会話内容がエスカレートする2人。実は食前酒に赤ワインを1本空けていた…なーんて事は店の人しか知らないひ・み・つ。彼女たちの頬がほんのり赤いのは高揚した気分のせい、午後の講義に支障はない、酔ってなんかいませんよー、そういう事にしておこう。ね。
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