元アイドル、ヒット曲にも恵まれた早川ミツル。アイドル時代、『フツー』の生活を送りたいなどと気の迷いはあったが、今の彼は到底『フツー』の生活とかけ離れた至福を手に入れていた。ビバリーヒルズにどでかいプール付きの豪邸が買えてしまうほどの金。オンナは乗り換え自由。BMWは買い物かご付き自転車以下の待遇に処せる。早川ミツル自身の放つ“色気”がそれらを引き寄せているに違いない、と芸能雑誌は書き立てる。が、当の本人はちっとも満足できないのだ。それが一度スターダムを登りつめた者の宿命というならば、甘んじてその通りなのだ。けれども、彼が満足できない理由は他にある。その事に気付いてしまった。彼自身、手に余り…始末に負えない…理由。
っと。
そうこうしてる間にBMWが恭介をピックアップ(というかほとんど拉致)した場所へ戻ってきた。街をぐるりとひと流し。野郎同士で仲の良いこと。
「着いたぜ。講義あるんだろ?」
「うっ………………」
>>僕は…たぶん凄い形相で、走り去るBMWを睨みつけていたんじゃないかと思え。そんな事…あるワケ…
「ん…なんだ、これ?」
それは、黒く艶々とした長い髪の毛だった。BMWの助手席に残っていたのを恭介のジーンズが拾ったのだ。恭介は残留しているかも知れない匂いを確かめようと鼻を寄せる…わからない。わかった事は、髪の毛の持ち主が、おそらくサラサラ・ストレートのロング…。
「まどか…。そんな…」
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