「はい、これ、残り物だけど」
「新しいメニュー…ですか?」
「そう、このシーズンだけね。感想を聞かせてくれると嬉しいな。餓死寸前の春日君?」
「マ、マスタぁ〜、…まいったなぁ」
それは、毛ガニのむき身が入ったクリームスープで。
今頃、まどかは北海道で新鮮な毛ガニなんかに、舌鼓を打っているのかなぁなんて連想しつつ、僕はまどかと毛ガニを食べた時のことを想い出した。
「ねぇ恭介。いつまでカニさんと、睨めっこしてるつもりなの? 早く食べないと冷めちゃうよ」
「いやぁ、どこから分解すればいいのかなぁ〜と。うぅぅん」
「食べたいところからに決まってるじゃない」
と、まどかは甲良の部分をカパッと取り外し、左手に甲良、右手にスプーンを構えて、悪戯っぽい瞳をした。甲良はつまり、カニ味噌が入っている部分であり、そこを食べなきゃ毛ガニ食べる意味なんて無い!(と僕は思っている)。
「ここ、も〜らい。残りはぜぇ〜んぶ、恭介が食べていいわよ」
「そ、そりゃないよぉ、『半分コしよっ』て言ったの、まどかじゃぁぁぁん」
「いつまでも迷ってる春日恭介君を助けてあげたの」
「そんなぁ」
「あはははは、冗談だってば。 ハイ、あ〜〜ん」
まどかが僕の口に運んでくれたスプーン…今、僕が1人で口に運んでいるスプーン。
同じカニなんだよなぁ?
「春日君、電話。小松君から」
「小松?」
こういうときの嫌な予感というのは、予知夢なんかより、はるかに的中率が高く…。
「か、春日か?。オマエ、ちょっと今から合コンに参加してくんない?」
ホラ、当たりだ。
「座って飲んでるだけでいいから、な、頼む。オマエの大学の男がいないと、短大のお姉ぇーさん達が逃げっちまいそぅなんだよ」
「イ・ヤ・だ」
「なぁ、つれない事言うなよ〜。そ、そうだ! オマエの大学にオレの知り合いの後輩がいるからさ、そいつにオマエの講義、代返させるからよ。な? それで、手を打たないか?」
ったく、つくづく調子のいいヤツだ!と…
でも、小松との取引に応じちゃった僕は、合コンに参加してしまったのであり。半ばやけくそ気味に、短大のお姉さん達と盛り上がってしまっているわけで。
こんなところを、もし、まどかに見られたら…ああ、オレって。
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