…ボクはキミに、隠していることがあるんだ……ボクには勇気がなかった…でも……ボクは…ボクの正体は…。女のくちびるが男の告白をふさいでいた…。…わたしも隠していることがあるの…あなたの正体に気付いているって事……あなたは、階段を上ってきた…この世に生まれ…わたしと巡り逢った…そして、…また、続きを上ってゆくのよ…わたしと取り返しの付かない時間を繰り返しながら…………
「エッチっぽくって、クル…………か…………」
春日恭介は鮎川まどかが帰国するまでの間、彼女から鮎川邸の夜間留守番を頼まれていた。自宅で夕食とバスタイムを済ませた彼。鮎川邸で彼女が飼っている生き物達へ、餌やり〜の、水やり〜のした後、ソファーで身体を横たえ、リビングに設置されているオーディオのスピーカーから流れる鮎川まどかのボイスに包まれ、恍惚とした表情で瞼を閉じる。恭介、お役目ご苦労さま。なんだけど…家主がキミを覗き込んでいるぞ。
「何が、クルの?」
「わっ、まっ、おっ、おかえりっ」
鮎川まどかはドサドサと両手に持っていた荷物をその場に置くと、ぷくっと頬を膨らませてオーディオのリモコンを手に取った。帰国早々、彼女はゴキゲンななめの様子。
「この番組、恥ずかしいんだから聴かないでって、言ったじゃない。…こっんなに大きな音で…………もぅ」
プチッ(オーディオ電源OFF)
「…毎回、聴いてるのに………………」
「?」
「な、なんでもない、なんでもない。なはは……」
鮎川まどかは、春日恭介に「お土産!」とニューオリンズで買い求めたバーボンのボトルを投げつけると、すたすたバスルームへ向かった。春日恭介はこの、きまぐれな生き物の世話も怠らない。まどかはバスルームから恭介に語りかける。彼はあぐらを組み、扉にもたれて彼女の話に耳を傾ける。扉が2人を隔てているけれど、その隔たりを心地よく感じられる時もあるのだ。
まどかの帰国が早まったのには理由があった。現地での取材はスムーズに進行し予定より早く終了した。なのに、彼女とスポンサーの宣伝担当者(男)だけ1日予定が追加されていた。「あとはよしなに」。つまり、仕組まれちゃったというワケだ。これが彼女の神経に障った。障りまくった。超〜逆鱗に触れてしまった(ごぉぉぉぉぉ)。
…………で。
鮎川まどかはスタッフと共に帰国してきたというわけなのだ。
>>僕は、鮎川まどかが、何処にいても、何処へ行っても僕の知っている『鮎川まどか』でいる事が嬉しかったのであり。まどかは僕に言わないけれど、“ピックのまどか”を呼び覚ましてしまったスポンサーの担当者が、ボコボコにされた上、現地の何処かの路地裏に捨て置かれている状況が想像できてしまう、僕なワケで…………ぷっ。
「恭介〜、なに笑ってるの?」
「ありがとう、話してくれて。…いい、旅行だったんじゃない?」
「……………ねぇ、…電気消して…くれない?」
「?…………、じゃあ、消すよ?」
「…うん、…………あ、あのさ…お風呂…入った?」
「あ…………………………………………いや…」
バスルームの中は真っ暗では無かった。窓から差し込む夜光がほんのり、鮎川まどかの肌に艶を与えている。湯に身体を沈めた2人。恭介はまどかを背後から抱く格好で、まどかは恭介の胸に背中を預け、身体の力を抜く。りら〜っくす。ふぅ。
>>1人ならゆったり入れる鮎川邸のバスタブは、20歳の男女2人が同時に入ると少し窮屈なのであり。でも、それが、その。…つまり、密着というか、肌と肌みたいなワケでして。
ちゃぷ
「知ってたの!?」
「うん。あかねさん、変わったでしょう?」
「…何かあったような…気がした…見た目もフェロモンむんむんって感じに変わってたし、…」
ちゃぷちゃぷ
「ほー?。そっかそっか…なるほどぉ〜、1つ新たな春日恭介を発見!」
「鮎川博士。それは、どんな春日恭介なんですか?」
ちゃぷん
「コホン、わたくし、鮎川まどかが発見した、超能力者、成熟個体オス、20歳、春日恭介の新しい特徴は…」
「特徴は?」
「エッチが進化していること」
「そ、そーんなの、まどかだって、進化してるじゃん。はははは、なぁ〜んだ、もぅ〜やだなー。はははははは…………はは?」
バシャッ!
「うぷっ」
「水も滴る、いーおとこ。あははは」
「…や、やったなぁ!」
fin
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