天国に近い島。
1番か2番、か、3番ほどに。
ま、それなり〜に近い島。その島の高台で一体の人魚像が太平洋を望んでいる。像は島のシンボル。砂浜に横たわり、待ち続けていた何かを見つけハッと上半身を起こした…そんな瞬間を彫刻した臥像。
今、その像の瞳が見やる視線上で、2人を乗せた双発のフライトが揚力を保っている。ホラ、大空と太平洋が織りなすアスタリスク・ブルーの空間に目を凝らしてごらん。白い点ほどの翼が…
あ。
揺れた。
急激に高度が下がったのだ。けれども、心配ご無用。機体は高度を取り戻し飛行を続ける。
「痛ぁ…」
機内では1人の日本人青年が現(うつつ)へと落下していた。自身の頭を何物かに打ち付け、夢が揚力を失ったのだ。成田から乗り継ぎを含めての長旅。今の内に寝ておこう、英気を養う睡眠から覚めたというわけ。
彼はまだ痛む患部をさする手を止め、彼の夢に星を散らせた元凶、肩に寄り添う何物かに瞳を見開く。
艶々した黒髪に天使の輪。
リンス換えたでしょ?(くんくん)。
すやすやと寝息を漏らし……でもって、
とびっきりの美人!。
「や、やだ…。ちょっと恭介、起きて。ねぇ、起きてってば」
「ほぁぁ〜あ、あん?。オレが…オレに話しかけてる?」
いつかはこんな事が起きてもおかしくなかった。叫び声を上げなかっただけマシだった。
>>客室は全席超エコノミー。さしずめ、空飛ぶ乗り合いバスといった雰囲気でして。機体のきしむ音を聴き留め、一蓮托生の運命を共有している存ぜぬ国の存ぜぬ人達のざわめきが上がる度、パーティションのないコクピットから、「みんな安心してくれ。ガタは来てるがコイツは1度も墜ちたことがないんだ。わはははは」なんて脳天気な機長の豪快な笑いが聞こえてきそうな、おかげで外の景色だけでなく客室も真っ青じゃんか!みたいなプロペラ機に乗り換え、僕らは南の島に向かったのです。でも、まさか…よりによって、こんな時に起こっちゃうなんて…。
春日恭介が彼のダイアリー:「バカンス往路編」末尾にそう記したのはゆーまでもない。
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