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Parallel Novel
「心の結晶、ひかるの夢クリスマス」
Chapter<10:最期のひと口、オレンジ・スプラッシュ!>

 「アハハハ。まどかさん、ナイスキャッチ!」

 「あ〜ぁ、生き残ったのはこれ1つだけってワケ? 春日恭介君?」

 「なは、なはははは…ご、ごめん」

 「ドジな春日君はお預けね、ひかる、これ一緒に飲も」

 そ、そりゃないよ、と台無しにしちゃったシェイクを片づける恭介を尻目に、鮎川まどかはストローをくわえ、オレンジシェイクを吸い上げた。

 「あっ…痛っ。は、はい、ひかる」

 まどかからシェイクを受け取りながら、ひかるにはわかっていた。ワザと頭が痛くなるまで飲んで戯けて見せている…まどかがとても機嫌のよい証拠。

 まどかからひかるに渡されたオレンジ・シェイク。中サイズ。
 手に持つと紙コップが内側にしなり、いっぱいに詰められた中身の感触が指先に伝わってくる。ひかるはストローをくわえて頭がキーンとするくらい吸い上げた。いたたた…そして、

 「はい、こぼした罰です。先輩、これを一気飲みして下さい。でないと、逆さウォータースライダーの刑ですよ?」

 まどかが笑いを堪えて涙目になっている。彼女にはひかるの作戦が以心伝心したようだ。どう見ても一気飲みできる量ではない。シェイクを奢ってまで敵前逃亡したウォータースライダーを逆さに滑らされる選択肢は最初から無い。春日恭介もその事はわかっているハズ。だが、彼は逃れられない罰を受ける前に鮎川まどかの顔色を、やっぱり、伺っていたりするのだった。

 「はやく飲まないと、溶けちゃうでしょ?」

 まどかの公認。 間接キス解禁!

 「ぐふっ…痛ぅ〜〜〜〜〜〜」

 執行完了!
 恭介はしゃがみ込み、両手で頭を押さえ悶絶している。よせばいいのに、オーバーアクションでストローからシェイクをグイィと吸い上げたのだから当然と言えば当然。彼なりの謝罪の形。

 「先輩、どーですか? 夏の醍醐味は?」

 「何も言えないくらい、感動的だそうよ。ぷっ…バカねぇ」

 …先輩。まどかさん。

 「はい、次。まどかさんの番ですよ。まぁだ、残ってます」

 ひかるの公認。 間接キス解禁!

 鮎川まどかは照れながらシェイクを手に取ると、うつむき加減に少しだけ吸い上げた。

 そして、オレンジシェイクはもう一度、ひかるの元へ戻ってきた。もう、あんまり残っていない。ひかるはほんの少しだけ口に含んだ。

 「まどかさん、リバース!」

 鮎川まどかはちょっと驚いた表情をした。
 ほんの少しだけ吸い上げ春日恭介にシェイクを回した。

 「はい…春日君の番だよ」

 春日恭介は照れながらシェイクを受け取るとストローに一瞬だけ口を付けた。そして、今度は迷わずにひかるにシェイクを回した。彼は間接キスの回数を平等にしようとしたのかも知れない。

 「はい。ひかるちゃん。あと、ひと口だよ」

 確かに残りはあと、ひと口くらいしかなかった。ひかるは飲んだフリをして、シェイクを鮎川まどかの元へ戻した。

 鮎川まどかは飲んだか飲まなかったかわからないくらい、飲んだ。もしかしたら、やっぱり、飲んだフリをしたのかも知れない。

 「ひかる、リバース…あと、ひと口だよ」

 オレンジシェイクはあと、ひと口で…無くなっちゃう。
 これを飲んだら、この夢も…終わっちゃう、そんな気がした。

 「飲めない!」

 咄嗟に口をついて出た。

 そして、まどかと恭介を見やった。こんなとき、2人はきっと困った顔をしているのに違いない。しかし、…微笑んでいた。2人の瞳は、…キラキラと優しかった。

 これを飲んだらこの夢は終わる。
 もしも、このまま最期のひと口を飲まなかったとしたら、永遠にこの瞬間が続き、夢は覚めないかも知れない。でも、この夢が終わったとしても、…あの3人が3人でいられた日々は無くなったりしない。

 いつまでも切なくて、優しい。
 どこまでも優しくて、切ない。
 あたしの大切な…宝物。

 ひかるは決心した。

 そして、ストローから最後のひと口を吸い上げたのだ。

 瞬間、炭酸の泡が沸き上がるような感覚に包まれ、ひかるは現実の朝へと浮上していった。

 

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