小さな光の点が見えた。
その点がどんどん大きくなり、自分に迫ってくる。あっという間に視界全体が光に包まれ、…
サバァーン!!ゴボゴボ…
「ぷはぁっ、ゴホッ、ゲホッ、…!?」
…何処、ここ?。温泉?
「ひかるぅ〜。どうだったぁ?」
まどか、…さん?。白いビキニ?
「ぅ、しょっぱぁ〜い。ケホッ」
水は温かかったけど、地底温泉じゃなかった。
「しょっぱい?。ヘンね、プールなのに…。それより、どうだった? お目当てのウォータースライダーは?」
「し、死ぬかと…コホッ」
「しぬぅ〜?、ぷふっ…そーかもネ。天使も溺れちゃってるし、胸のトコもずれてるし」
むせ返すひかるの背中をまどかの手がさすっていた。しょっぱいと思ったのは自分の涙が口に入ってしまったせい。顔がプールの水で濡れているのか、涙で濡れているのか良くわかんない。でも、状況は飲み込めてきた。
ここはプールの中。季節は…たぶん夏。足が着いて腰から上が出るくらいの水位。自分はウォータースライダーに乗っていた。つまり、夢の続き。ケホッ…で、まどかさんから感想を訊かれている。コホッ…先輩からもらった天使のお守りは右手の中で濡れてるし、胸のトコもずれてるし……………ずれてる?
「ひかる。そんなに慌てなくたって平気。誰も気付いてないよ。結わえ直してあげるから、胸押さえて後ろ向いてごらん」
ひかるもビキニだった。
それも今年、夏が来る前に買って、いざ着ようと思ったら試着したときより胸が成長しており、結局着なかったっていう、ちょっと嬉しかったヤツ。
「これでよしっと。ひかる、そろそろ上がろっか?」
「まどかさん、…サンタ盗賊団って知ってます?」
「サンタ盗賊団〜?、なぁにぃそれ? ひかるってば、さっきからヘンだよ」
「じゃあ、キューピドは?」
「クリスマス映画のトナカイでしょ?。どうしちゃったのよ、ひかる?」
…このまどかさん、死んじゃったまどかさんじゃない。全然知らないんだ…あたしを…あたしのことを…
「まどかさんっ!!」
「え?! な、何よ、ちょっと、ひかる!、やめてってば、やめ…」
浴びせ倒し成功!
ゴボ
あんな切ない気持ちにさせといて、…許さないんだから!
ゴボ
まどかさんなんか、…こーしちゃうんだから!
ゴボボ
息止めたってダメ。お腹のトコ、弱いの知ってるんだから!
…お腹、よかった…くすぐっちゃうんだから!
ゴボゴボゴボ
「ぷはっ。ひかるぅ〜、やったなぁー」
「ベーっだ♪」
その後はいい勝負。夢の中の2人は同い歳だったから、身長も体力もさほど変わらなかったのだ。
じゃれ合いながら2人はプールサイドの丸テーブルまで辿り着いていた。パラソルが影を作ったテーブルの上には、すっかり濡れちゃった天使のお守り。ひかるが指で押すと水がジュワァと染み出す。中身はスポンジか綿みたいだ。
…よく見ると、どこかで見覚えがあるなぁ、これ。
「ね、ひかる?、そーゆーのが好きなら作ってあげるよ」
まどかがひかるの髪をバスタオルで拭きながら言った。
「いつでも逢えるように、…いえ、とびっきり可愛いの、作って下さいます?」
まどかは、いつでも何処でも元気200%になれるお守りを作ってあげるよ、とひかるに答えた。ひかるは思った。過去にまどかとこういう約束をしたことはない。でも、現実世界でもこういう約束があってもおかしくなかった、と。
「おーい。2人ともぉ、買ってきたよー」
恭介だ。ストローのささった大きめの紙コップを3つ、大事そうに抱えてプールサイドを歩いてくる。彼は海パンいっちょで元気に生きてるようだ。まどかに「春日君。ウォータースライダーを敵前逃亡したお詫びにしては、誠意が足りないんじゃない?」なんて茶化され、ナハナハ笑いをしている。
現実世界と夢の中。1度ならず、2度までもひかるをさんざん泣かせておきながら、この春日恭介はなぁ〜んにも知らないのだ。まどかを想って、ひかるの心も大切にして、彼なりの優しさが仇になって、やっぱり優柔不断なのに違いない。
先輩…よかった。でも、先輩にもお仕置きしてやらなくっちゃ。死んじゃった先輩とは違うけど…あんな想いをさせてくれちゃったんだから!。なぁ〜にが、ナハナハよ!
「時間かかってごめん。オレンジシェイク3つって結構、持ちにくくってさ…」
「先輩〜、気を付けて下さいね〜、落とすと半径100メートルは吹き飛びますよー♪」
ひかるの煽りにちょっと慌てた恭介は、テーブルの手前にある段差、きっとここで躓くな、とひかるが思ったとおり、ガラガラガッシャン。シェイク2つは転んだ彼に押し潰されてお役ご免。彼の手を放れ空中に放り出された1つは、咄嗟にまどかがキャッチ。爆発はしなかったし半径100mも吹き飛ばなかった。
作戦成功!
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