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Parallel Novel
「心の結晶、ひかるの夢クリスマス」
Chapter<7:願い、まどかからのプレゼント>

 「ひかる…あたし、あたしは…」

 「何も言わないで!、まどかさん」

 このまどかは、ひかるの知らない鮎川まどか。夢の中の存在。しかし、ずっと恭介を想い、ひかるの気持ちを想い、自分を責め続け、強がっていたに違いない。ひかるが現実の過去と重ね合わせるのに、十分なほど条件は揃っていた。

 『まどかさんは、ズルイです!』

 入れ替われるものなら、まどかと入れ替わりたい。その位、まどかに嫉妬した。しかし、あの言葉を言わなかったことにしたいと、何度も悔やんだ。これ以上、この人に切ない想いをさせてはいけない…。

 「あたし、まどかさんのこと、いつでも大切に想っています。最高のお姉さんなんです。あたしのスペシャルなんです。だから、もう苦しまないで。…ほらぁ、ダメですよ。そんな顔。あたしの元気、分けてあげます。しっかり、…抱いてください」

 堰を切ったようにまどかが泣き零した。こんな力が身体のどこに残っていたのかと思えるくらい強くひかるを抱きしめた。

 この人の切なさを少しは和らげることができたのか…いや、また切なくさせるような事をしてしまったんだ…。何もかも受け止めようとしてしまう人。あたしの存在そのものが、まどかさんにとって切なさの原因なんだ…。

 「ひかるに、あたしからのプレゼント、しなくっちゃ、…ネ」

 恭介がまどかを抱え上げ、祭壇の隅にある古ぼけたアップライト・ピアノへ向かって、静かに運んでゆく…。ステンドグラスから差し込む微光が2人を照らす。もう、これがラストシーンでいい、とひかるは思った。が、夢は止まってくれない。

 「2人とも…曲が終わらない内に行って…」

 まどかはピアノの前板へもたれるように左半身を預け、右手だけを鍵盤に添えた。その右手の指だって『安らかになれるお薬』で麻痺し、感覚は朦朧としているのに違いない。

 コロリ、コロリン、…まどかの演奏が始まる。
 ひかるが落ち込む度に、まどかが弾いてくれた曲。
 ため息が止まらないほど憧れた、華麗な鍵盤タッチ、…ではなかった。1音1音を確かめるような演奏。今にも止まってしまいそうなオルゴールのような。でも、魂がこもった音ってこういう音なんだとひかるは息をのんだ。

 When you wish upon a star、星に願いを…

 最期の、願い。

 姉から妹へのクリスマス・プレゼント。

 

 「さ、2人とも。追っ手が来る前に、祭壇の裏から階段を下りて地下用水路をいきなさい。何も心配はいらない。私が責任を持ってまどか君を綺麗なまま身許へお届けしておくから。あ、それから、春日君。これを持っていくといい」

 手榴弾だった。

 「半径100メートルは吹き飛ぶという厄介な代物だよ。投げる能力がなければ役に立ちゃしない。こんなものを隠していたなんて聖職者としてあるまじき行為だけど、お守りだと思って持って行きなさい」

 銃は持っていても実弾は込めていない、それがひかるの設定した盗賊団の掟だった。と、いうことは先刻のM240といい、これも掟破り。

…えぇー、また、モノホン?。ちょっとちょっとぉ。

 この夢が本当にハッピーエンドで終わるのか?という疑問で頭がいっぱいになってきた。現にまどかは瀕死の状態である。でもって、手榴弾。お守りって言ったって、つまり、自殺用だよね?。

 目の前の光景と、ハッピーエンドとの接点が見えず混乱し始めたひかるの腕を、グイッと恭介が引いた。彼はひかるを引きずるように、階段を降りてゆく。地下用水路に辿り着くまでの間、ひかるの腕はずっと痛んだ。力にモノをいわせた彼の行動。ひかるには彼の張り裂けそうな想いが、もしかしたら張り裂けていることに、彼自身が気付かないくらいの想いがビンビンと伝わってきた。

 とにもかくにも、夢は進行している。
 今はその流れに任せるしかない。
 ハッピーエンドへのどんでん返しが用意されているのかも知れないし…。

 

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