Top/This site/Animation/Manga/ParallelNovel/Links/
Parallel Novel
「心の結晶、ひかるの夢クリスマス」
Chapter<6:いきなり悲劇!?、ひかる体当たりの熱演>

 「すみません! お願いします! 開けてください!」

 ひかるは教会の扉を、壊れんばかりにノック!。大道具のセットじゃないから思いっきり叩いても大丈夫である。
 と、すぐに神父様が現れた。

…マスター!?

 「今年もクリスマスのお勤めは終わったようだね。さあ、急いで中にお入りなさい。ん?、まどか君、…どうしたんだね!?」

 「あたしのせいで…怪我しちゃったんです」

 「ひかる…、ひかるのせいじゃないよ。ほら、…そんな顔しないの」

 恭介とひかるは祭壇の前、厚めの絨毯の上にまどかを寝かせた。まどかの呼吸が途切れ途切れになっている。時折、切なさそうな吐息も漏らしている。とにかく、急いで手当をしなければ。

 「か、神様の前で、なにすんのよ、エッ…チ…」

 恭介が手をかけたまどかのサンタ衣装から反射的に手を離す。まどかの意識はしっかりしているようだ。ひかるが恭介に代わる。それで、まどかは観念し身体の強張り解いた。サンタ衣装の上着を脱がす。インナーの白いTシャツが腹部の辺りで鮮やかな赤に染まっていた。あと少し。Tシャツをめくる。

 「うっ」

 激しい目眩がひかるを襲った。
 酷い銃創…。SFXでもこれほどリアルには表現できまい。特殊効果用の血で無いことは明白だった。これは夢。でも夢だと思っているのはひかるだけ。恭介もまどかもこの夢の中ではリアルな存在。撃たれれば怪我をするし、もしかしたら…

 ひかるが目眩から立ち直ると、恭介が玉のような汗を流しせっせと包帯を…巻こうしているのだが、上手くいかない。不器用な彼は自分を呪うように止血しない患部に向かって「止まれ!止まってくれ!」と繰り返している。まどかの苦悶の表情がいっそう険しくなった。

 「あたしが巻きます!。先輩、まどかさんの手をしっかり握ってて!」

 「ひかる…、あたし、もうダメ…だよ」

 ひかるにとっては、この手の、ありがちな展開を盛り上げるのは造作もなかったが、気の利いたアドリブなんて入れてる余裕はない。

 「何言ってるんですか!。気をしっかり持って!。絶対、大丈夫です!。ハッピーエンドになるんだからっ!」

 「ありがと、ひかる…でも、自分のことは自分が一番、わかるから…ネ?」

 まどかの手は、必死に包帯を巻き続けるひかるの顔の輪郭を確かめるように撫でている。柔らかい姉の手。しかし、…

…体温がどんどん下がってる?!。なによ、なんなのよ!

 ひかるの動揺をよそに、まどかは神父様に目線を投げた。全てを察したかのように神父様は、「安らかになれるお薬」とやらを、まどかの腕に注射し、さっさと最期のお祈りを始めてしまっている。

…ちょ、ちょっと待ってよ!。助かるんだよね?。まどかさん、死んじゃうなんてことは無いんだよね!?

 「最期の願いはあるかね?。まどか君」

 「い…いえ、ありません…」

 「あ、鮎川…あゆ…あゆ…」

 「最期、ゆえに告げられる言葉も何もないのかね?」

 「え、ええ…、い、いいんです…神父様」

 「あゆ、あゆかわ…」

 ひかるの胸の奥で何かがひかるを呼んだ。

 「嘘!、ウソです、マスターじゃなかった、神父様!。まどかさん、嘘を付いてます!。 まどかさん!、こんなときまでアタシに気を遣って、強がらないで!」

 まどかも恭介も神父様も、ひかるの剣幕に圧倒された。ひかるは、突き上げてくる衝動に任せ無我夢中だった。こんな展開、絶対許せない!。

 「先輩、まどかさんの願い、叶えてあげて下さい。アタシいいんです。わかってるんです。後ろ向いてます。だから早く!」

 ひかるには聞こえた。
 2人の衣服が擦れ合う音…
 そして、2人のくちびるが鳴る音…
 まどかの吐息…さっきまでの吐息とは違う…
 感極まったような、せつない吐息…

 ひかるの背後には、ひかるの知らない鮎川まどかと春日恭介がいる。姉では無いまどか、ダーリンでは無い恭介。見てはいけない、絶対に見て…。

 それは、想像してしまう度に、ひかるを呼吸困難に陥らせた2人のシーンだった。まどかと恭介のくちびるが、この世のものではない生き物のように互いを求め合っている。

 胸のまだ痛いところがキュンと軋んだハズ。
 気が遠くなるほど長い時間に感じた。
 これは夢なのに。

 ひかるは台本を書く際、このシーンへの伏線になりそうな設定は盛り込まなかった。意識してうち消したのだ。でも、今、自分は衝動的に妹分である自分を演じて、その結果、呆然と2人の口づけを眺めている。

 「メリークリスマス。鮎川…」

 「…大切にするよ。恭介…ひかるのこと、お願い、ね」

 2人のくちびるが離れる瞬間、微かに互いのくちびるが相手を追い、別離を惜しんだ。そんな2人のシーンに映画館で魂を抜き去られた観客のごとく、見入っている自分が滑稽なくらい、悲しかった。

 

P-NList / Next
Parallel Novel
Top/This site/Animation/Manga/ParallelNovel/Links/