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Parallel Novel
「夏の光!僕らは再び出逢う」
Prologue<2:春日恭介の朝>

 

 僕、春日恭介は枕元に置いてある携帯電話の着信メロディーに飛びついたところだった。
 着信メロディー…相手毎に登録できるので、電話に出なくともメロディーで、特別な相手からだとわかる。僕のパワーなんかよりスゴイと思えるワケで…。

 「まどか、おはよう!」

 今朝は昨晩、早く寝てしまったせいもあり、既にベッドの中で目は覚めていたから、「待ってました!」って感じで、モーニングコールをかけてきた相手がしゃべり出すより先に言ってやった。そ、朝の弱い僕はちょくちょく、まどかにモーニングコールをお願いしているんだな。

 『モーニングコール1回につき、アバカブでランチ1回だからね』

 これが、彼女の出した条件。
 僕にしてみたら寝坊して収拾のつかない事態に陥るよりは、まどかにアバカブでランチを奢った方が…いや、彼女に目覚めさせてもらえる幸せがアバカブのランチで買えるなら毎日でも(財布と相談だけど)、お願いしたいワケであり…でも、今日は頼んでなかったよな?と…。

 「恭介、おはよ。どうやらケータイの使い方、覚えたみたいネ」

 まどかが僕をちゃかすのも無理はない。
 彼女にまどか専用の着信メロディーを入力してもらいたいがために、僕はまどかと同じタイプのケータイを買ったのであり、まどかがメロディーを入力してくれた、その時点で僕の希望は満たされてしまったので、その後マニュアルなどほとんど読まずに使っているのだ(って、いばれる状態じゃないけど)。
 だから、着信メロディーで判別できる相手はまどかだけで、その他のコールは全て買ったときのままという…ありさま。

 「今日、アバカブでランチしない?」

 「え?…今日はオフでゆっくり寝てるんじゃなかったっけ?」

 「ランチ券、使いたくなったの」

 モーニングコールと引き替えのランチ。
 彼女はその1回1回をランチ券と言い換えているわけで、未使用のままかなり貯まっているんだな、これが…。
 僕が誘わない限り、まどかの方から希望することが無かった、ということもあるけど、『きっとこうなるだろう』と彼女は予想がついていて、あんな条件を出したのに違いなく。 そんな彼女の先回りした気遣いが嬉しくもあり、彼女に先回りさせてまで気を遣わせてしまう自分が情けなくもあり…。

 幸い、明日の夏祭りの準備(町内会から撮影を頼まれているのだ。親父の代わりってヤツね)を終えているので、まどかが疲れて寝ているなら、今日は日がな一日、街でもぶらぶらしようと思っていたところだ。

 彼女はよほどの事がない限り、自分の弱っている姿を恋人である僕にすら見せようとしない。僕としては「『よほどの事があったとき』にまどかの支えになれる男でいたいと思っているけど、たまにで構わないから『よほどの事がなくても』僕に甘えて欲しいとも思っている。
 だから、この、まどかからの予定外な誘いが嬉しかった。

 「もちろん。OKだよ。何時にする?」

 「11時半でどう?。…ねぇ、予定あったんじゃない?」

 「予定?。うん、あるよ」

 「…ごめん、急に無理言って」

 「今日の11時半にまどかとアバカブでラ・ン・チ、…っていう予定」

 「ばぁーか」

 僕はまどかとの待ち合わせを決めた後、初夏の陽気に似た気分に任せてブラインドを開け、寝起きの瞳には痛ぐすぐったい、朝の光を部屋に招き入れた。
 明日は夏祭り。撮影がてら、まどかと金魚すくいをしようなんて、言い合わせているのであり。僕はしばし、夏祭りにまつわる追憶の数々と、取り留めのない連想ごっこを始めてしまっていた。

 

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