初夏の朝の中。
「んー」
まどかはお気に入りの浴衣を干し終え、思わず、背伸びをしたところ。庭の芝生には彼女と浴衣の影がちょうど重なり、気持ちよさそうに微風と和らいでいる。
一人暮らしで昼間、外出の多い彼女。いつもなら乾燥機を使うところなのだが、天日で干した肌触りには敵わないとも思っている。幸い、今日は1日オフ。天候にも恵まれ、洗濯物を干すには絶好のタイミングと彼女は考えたのだ。
「…ったくもぅ。明日の昨日に言うなよなぁ」
やれやれ、といった独り言を漏らしながら、でも、彼女の表情は柔らかい。そして、朝一番で彼女を目覚めさせた電話。夢の中から引き戻されるにはあまりにも唐突な内容を思いだして、彼女は小さく吹いた。
「あっ、ま、まどか?。ごめん。やっぱり寝てた、よね?」
「…う〜ん…」
「明日の夏祭りなんだけど、そのぉ、モデルやってくれない?」
「……あしたぁ…金魚すく………モデルぅ〜?」
「で、でさぁ、あの浴衣…ほら、蝶々の柄のヤツ、あれ、着てくれると嬉しぃかなぁー、なんて…」
「…ゆかたとちょうちょぉ〜?……ねぇ…恭介」
「なに?」
「わたしの寝起き……狙って頼んでない?」
「えっ、そそ、そんなことないよ」
「…アバカブでランチ」
「へ?」
「恭介の悪だくみ訊いてあげるから…今日、アバカブで、ラ・ン・チ」
「わわ、わかった。11時半でいい?」
「恭介は予定、だいじょうぶなの?」
「うん。明日の準備は終わってるし、まどかは疲れ…いやぁ、今日は街でもぶらぶらしようかなぁ、なんて思ってたから…」
「…………………………」
「まどか」
「ん?」
「……………おはよう」
恭介のこと、大方、クライアントからの急な申し入れを断れなかったのだろう。そんなときは決まって、まどかにモデルのお鉢が回ってくる。しかし、まどかは恭介の慌てぶりの中に、彼の変わらない、まどかへの想いが感じられて嬉しかった。
「夏祭り…か」
そう呟いて、彼女の瞳は初夏の空を慈しむように見上げていた。
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