「帰るのね…」
まどかはそう言って少女を抱き寄せた。
少女はまどかの耳元に口を寄せ、何事かを囁き、2人は僕の方をチラッとうかがったかと思うと、くすくすと秘め笑い。
僕はパワーを使ってそれを盗み聞きしようとはせず。ただ、絵になりそうなその光景を脳裏に焼き付けようと。
少女はまどかとの抱擁を終えると、僕に向かって悪戯っぽい瞳。…刹那、たぶん、条件反射ってヤツ…、助走をつけ、どぉ〜ん、と身体を預けてきた少女を、僕はよろけながらも何とか抱き留めた。
「まどかさんを泣かせたら、しょーちしないから」
「う、うん。約束するよ」
彼女は『ほんとにぃ?』という瞳を見せてから、僕の左頬に唇を軽くあて…。僕は何となくだけど将来、彼女にひっぱたかれる頬はこちら側なんだなぁと…根拠もないのに思ったワケで。
少女は僕らとの抱擁を終えると階段の縁まで歩き、階段の下のカズヤに合図を送った。
いよいよだ。
また、逢おうね。ヒカリちゃん…。
彼女の背中は幾度か深呼吸、僕らにもわかるような仕草で時間を溜め、心を決めている。僕には今、少女が全身全霊で用意しているモノ、…せつないほど、わかっていた。
少女の身体がピクリと揺れた。
さあ、こっちを向いて。
そして、…
とびっきりの笑顔!
…違う。
今にも泣き出しそうな、それでも精いっぱい、明るく振る舞おうと踏みとどまっている笑顔。
僕は瞬間、息が止まったと思う。
何か言葉をかけたら、砕けてしまいそうなほど危うげで、キラキラとした想い出の結晶のような、…愛くるしい少女。
…………そのまま…………………………………
………………仰向けに……………………………
…………………少女の身体は……………………
………………………倒れ始め……………………
「あぶないっ!」
「ヒカリっ!」
とっさに、僕とまどかは少女が階段から落ちてしまうんじゃないかと思え、彼女に駆け寄り、彼女の身体を掴み止めようと手を伸ばした。が…
…眩しい光に………………………………………
…………少女は……………………………………
…………包まれて…………………………………
…………泣き顔になってしまう前に……………
……………………………透きとおって…………
……………いっ…………………………た………。
1秒でも経ったら壊れてしまいそうなほど、
完璧なオレンジ色の空間を残して。
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