僕らは、まどかと僕が出逢った階段を登っている。
陽はかなり傾き、辺りはオレンジ色に染まりつつあり。
「51,52,53,…」
少女は僕とまどかの数段先を登りながら、登りはじめからずっと階段の数を数え続けている。あの日、初めて僕が数えた時と違い、1段1段をやがて訪れる別れの瞬間に向かってカウントダウンするかのように。
僕は結局、この娘がどんなパワーを持っているのか、訊けずじまいになりそうだけど、それで良かった。少なくともこの娘の能力は完璧ではなく、人の心を覗くことはできない、だから、思い余ってこの時代の僕らに逢いに来てしまったのに違いなく、それくらい、この娘は人とのふれあいを大切にできてる…そう、思えたから。
少女は立ち止まると、くるりと振り向き、おどけて見せた。
「わたし、パパと同じくらい“おっちょこちょい”、ママに負けないくらい“気が強い”んだって。さ・い・あ・くでしょ?」
まどかが吹き出した。
「アハハ…そうね。でも、似たのはそれだけじゃないわ。でしょ?」
「うん」
少女はまた、階段を数え始めた。さっきよりは少し明るく、張りのある声で。
<おっちょこちょいな鮎川まどか>を想像して僕は微笑ましかった。少女のおっちょこちょい…そのせいで、引っ越しを繰り返す羽目になるのだろうか、などと。でも、たとえ、どんな未来が僕らに訪れたとしても、少女と一緒に乗り越えられそうな気がして。少女の存在がとても愛おしく…。
少女が90段目を数えたとき、彼女のケータイが鳴った。アバカブでは慌てて取り出したケータイを今はゆっくりと、少女はカバンから取り出した。
その、着信メロディーが…僕にもわかった。曲の名前は僕とまどかしか知らない。
2人で越えた初めての夜、まどかが僕にプレゼントしてくれた、そして最近、僕のケータイにまどかが入力してくれた、あの曲…。
「あ、カズちゃん?。連絡遅れてごめんなさい。そろそろ迎えに来てくれる?」
カズちゃん?…カズヤだ!
これで、少女と僕らが出逢った『からくり』が解けた。時代を超えてケータイを自在に操れる能力があれば造作もないハズ。でも、それって凄すぎるワケで。
僕もケータイの電磁波を辿って遠距離テレポート、なんて能力を使えるけど、コールが途絶えてしまうとダメなのであり、1度使ったら疲労が激しく、日を置いてパワーを貯めないと再度使えない、という中途半端さで。時代を超えてまでなんて想像もつかない。
カズヤの能力は凄まじいまでの成長を遂げるんだなあ、と。
少女がケータイを切るとまどかが訊いた。
「その曲。好きなの?」
「うん。大好き」
「ふ〜ん」
2人はそう交わすとまたニッコリ…微笑みあった。
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