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Parallel Novel
「夏の光!僕らは再び出逢う」
Chapter<5:スコール、そしてキミの涙>

 15:00 雨は止まない。
 鮎川邸の1階。僕はリビングのソファーにいる。

 「恭介。何か飲んで待ってて」

 まどかが用意(不器用な僕専用らしい)してくれたティーパックを使い、自力で入れたアールグレーをすすっているワケで。
  2階のまどかの部屋からは、まどかと少女の嬉々とした会話が時折、聞こえてくる。2人を待っている間も僕は、まどかと少女の関係に、あれやこれやと思いを巡らせていて。

 「恭介〜。ちょっと、きて〜」

 はいはい。なんでございましょう。
 って感じにソファーの反動を利用して立ち上り、僕はいそいそと階段を上ってまどかの部屋にお邪魔…

 「恭介。どう思う?」

 僕は唐突に感想を訊かれる状況に弱いんだけど…不思議なほど素直に言えた。

 「に、似合ってる…かわいいよ」

 「これで、帯のしめ方はわかったわね?」

 「はいっ」

 少女はまどかの浴衣を着ており。
 まどかは少女に帯を1人でしめるやり方を教えていたのだと。
 でも…

 

 『ねぇ、恭介。この浴衣覚えてる?』

 以前、僕はまどかの部屋の模様替えを手伝った折、あまりにタンスが重いのでパワーを使って移動させようとして大失敗。その時、タンスから抜け落ちた引き出しの中に、蝶々の浴衣が収納されていたのであり。散らかってしまった引き出しの中身を整理し直しながら、まどかは僕に訊いたんだ。

 蝶々の浴衣。蝶々の柄が染め抜かれた浴衣なので僕らはそう呼んでいる。僕が初めて見たまどかの浴衣姿。僕のせいで夏祭りの花火大会に行けなくって…2人きりで線香花火をやったっけ。そのことを、まどかに話すと、彼女は、

 『あたしが浴衣着ようとすると、必ず何か起きるんだよね』

 な〜んて戯けた後、暫くの間、蝶々の浴衣をさすりながら物思いに墜ちてたっけ。むろん、僕も同時に墜ちてたけど…

 だから僕は、まどかが想い出の詰まった浴衣を少女に着せてあげるなんてと驚いた。でも、それはつまり、まどかと少女がやはり、今日初めて逢ったのではない事の証なのかも知れなく…

 「ねえ、ヒカリちゃん、待ち合わせの時間はいいの?。雨、止まないみたいだし、送ってこうか?」

 まどかの言葉にさっきまでキャッキャと話が弾んでいた2人に一瞬沈黙が流れた。少女の瞳の奥で何かの想いが揺れ…まどかにも間違いなくそれは伝わったはずで…

 「帰っても…、その…」

 「ご両親は共働きなの?」

 そう問うて、僕はしまった、と思った。きっとこの娘の家庭は複雑なのであり、立ち入ったことを聞いてしまったと。気を利かせたつもりで、つい、デリカシーのないことを言ってしまう自分が恨めしくあり…。

 「う…ん」

 消え入りそうな声でうなずくと少女は目蓋を伏せ、
 ………………………涙が………………………
 ……………………………………………こぼれた。

 少女の突然の涙。
 こうなると情けないが、もう僕には何も出来ない。自分の失言から多感な時期の少女を泣かせてしまったのに……ああ。
 数時間前、突然の雨に濡れた僕など溶けて無くなってしまうほど、強烈で居たたまれない雨の中に立ちすくんでいるようで…でも幸いなことに、この場にはまどかがいるワケで。それが唯一、僕にさしかけられた救いの傘だった。

 「恭介。ヒカリちゃんと2人にしてくれない?」

 「う、うん。わかった」

 僕は自分で気まずくしてしまった雰囲気から逃げるように、1階のリビングへと退散した。僕のこういう部分は昔っから成長しておらず、ことある度にまどかがフォローしてくれて、そんな状況に僕は甘えているのかも知れず…はぁ。
 などと、悔やんでも……少女は泣いているわけで…はぁぁ。

 『ごめんね…』

 「いや、僕が悪……………………
…………………………………いぃ?」

 まどか…違う、これは、ヒカリちゃんの声。
 リビングには僕ひとり。
 でもって、声は明らかに僕の意識へと直接飛び込んできた。
 ということは、つまり…
 この感覚…

 あの娘はテレパシストなのか!?。

 僕にはテレパスの能力が無いんだけど、心の中で念じてみた。

 <キミはいったい、誰なんだ?>

 が…反応はない。

 僕の念じを読みとれない彼女のテレパスは、『思念を送るだけ』かも知れないし、ただ単に無視しているだけなのかも知れない。でもそんな事この場合、大した問題ではなくって、少女が能力者なら、まどかに万が一が起こってからでは遅い!。
 でも、僕は少女に悪意があるとは到底、思えなかった…。

 だから、パワーを使ってまどかと少女の様子を伺うことに。透視や盗み聞き(かっこ悪ぅ〜)だったらできるんだ。
 目をつぶり意識を集中させると、彼女たちの様子が見えて…。

 

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