「助かったよ。ヒカリちゃん」
「いえぇ、わたしこそ無理言ってごめんなさい」
「いや、いいんだよ。それよりさ、良かったら正式にバイト…してくれないかな?」
「あ、ありがとうございます、マスター。嬉しいです。でも…」
「あ、いや、いいんだ。無理しないで。気が向いたらまた頼むよ」
「はいっ」
少女はバイト代を受け取らず、2杯目のカフェラッテをマスターからサービスしてもらっている。マスターにしても少女に決して理由を訊かない。僕はマスターのこういう温かさが好きだし、尊敬もしている。マスターと少女。2人は以前からアバカブで共に働いていたかのようにさえ思えた。
息があった2人…マスターとまどかのように。
「雨が、降ってきそうだねぇ」
マスターが外を見ながらそう呟くと、
「いけないっ、浴衣!」
まどかはそそくさと帰り支度を始めた。
「浴衣、干してきたの?」
「あ〜ん、急がなくっちゃ。恭介のせいだぞぉ」
「え、オレの?。じゃあ、コーヒーを追加オーダーしよっか?」
「お・ば・か言ってないで、早く!」
「はいはい」
僕は会計を済ませ、既にアバカブの外で今にも泣き出しそうな空を見上げている、まどかの元へ急いだ。とにかく、雨が降り出す前に彼女の家に辿り着かねばならない状況であることは確実。とりあえず、彼女を連れてテレポート出来そうな場所を探さなければ…と思い。
「ほんとに降りそう…」
少女が僕らの傍らで空を見上げていた。手にはカバン。
彼女はさっきケータイで誰かと待ち合わせた場所にゆくんだな…
「ヒカリちゃんはどっちに行くの?」
まどかが少女に方角を訊いた。
「こっちです」
少女が指さした方角は僕らがこれから帰ろうとする方向と同じだった。
「じゃあ、いくわよ」
「はいっ」
まどかと少女はそう交わすと、サッと走り出した。
「えぇ?ちょ、ちょっと待って」
予期せぬ出来事に僕は…2人を必死で追いかける羽目になり、そのような状況下で、前をゆく2人の走り方が…似てるなぁ…などと苦しい息の中で考えていた。
結局、2人の姿は見えなくなってしまい、テレポートするタイミングも失ってしまい、やっぱりなスコールの中、僕がへとへとになってまどかの家に辿り着いた頃には、すでに洗濯物が取り込まれており。
「恭介ーがんばれー!」
「恭介さーん、ふぁいとぉー!」
2人が窓越しに僕を応援、じゃない、ずぶ濡れになった僕をちゃかしてくれちゃっているワケで……………とほほ。
「浴衣は?」
「間一髪セーフ。ヒカリちゃんに手伝ってもらっちゃった」
まどかは僕に向かってバスタオルを投げ、
「でも、また洗濯物が増えたみたいネ」
と、さらに僕をちゃかす。
まどかに僕の服を洗濯してもらうなんて事は、特別な事がない限りあり得ないワケで、今日の彼女はよほど機嫌がいいのは間違いなく。
「アハハ」
「アハハハ」
まどかと少女は僕を笑い飛ばす仕草まで…とても…。
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