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Parallel Novel
「夏の光!僕らは再び出逢う」
Chapter<3:エプロンが似合うキミの後ろ姿ってばさ>

 僕が、まどかと少女の馴れ初めを訊くタイミングを逸しているうちに、アバカブの店内はランチタイム目当てのお客さんで騒然となってきた。今日はバイトの子がお休みらしくマスター1人では手が足りないのは明白。こういう場合、まどかか僕、あるいは2人で無償奉仕を申し出るのが通例なんだけど。まどかはお疲れ睡眠を取る予定だったのであり、少女とも会話が弾んでいる。それじゃぁ僕が、と奉仕を告げ…

 「あのー、わたしにお手伝いさせてくれませんか?」

 少女の突然の申し出に、マスターも僕らも驚いた。

 「わたし、こう見えても喫茶店でアルバイトしているんです」

 少女は続けた。

 「お願いします。今日1日で構いませんから」

 「じゃあ、頼もうかな。っと、ヒカリちゃんでいいかな?。ロッカーに着替えがあるからね。あ、まどか君、悪いんだけど彼女の着替えを手伝ってやってくれないかな?」

 アバカブ以外の店、マスター以外の店主だったら断られていたかも知れない。しかし、マスターは、こういう娘の気持ちや突然の申し出に何か理由を感じて接することができる心の持ち主だ。マスターのそんな心遣いに僕とまどかは、何度も励まされ、幾度となく安らいだことか。

 「こっちよ」

 「ありがとうございますっ。お、おねがいします」

 まどかに連れられ、少女がロッカールームへと続く通路の向こうに消えた。

 「なあ、春日君」

 「何ですか?マスター」

 「あの2人、とても他人同士には見えないな。そう、思わないか?」

 「そそ、そうでしょうか…」

 僕はまだ、まどかに似た少女の存在を受け止められないでいた。それは、少女が椅子から立ち上がり、僕の前を通り過ぎたとき残していった匂い、それが、まどかのそれと似ていたからかも知れなく…心ここにあらずって感じで、誰かが止めてくれなきゃ永遠にスプーンでコーヒーをかき回していたかも知れない。

 まどかと少女が戻ってきて…………僕の手は止まった。
 アバカブのトレーナーとエプロンを付けた少女は、初めてそれを身につけたとは思えないほどキマっていて、その雰囲気はまどかのそれと重なって見えたから。

 「ほぉおお!?。こりゃ、ますます似てるな。な、春日君」

 「ほ、ほんとに。似て…」

 僕はマスターの問いかけに、そう答えるのがやっとで。

 「マスター、簡単な説明はしておいたから。飲み込み早いわよ、ヒカリちゃん」

 まどかはマスターに告げながら、少女と目配せをした。
 まどかと少女はすっかり打ち解けあっているようで、それがまた何とも…。

 「じゃ、オーダーを取ってきてもらおうかな。ヒカリちゃん」

 「はいっ」

 元気に返事をすると、少女は、アイスボックスの蓋を開き、彼女が初めて触ることになるであろうアバカブのコップに氷をコツンコツンと入れ始めた。
 僕はちょっと意地悪く、少女の動作を採点することにした。もちろん、心の中でだけど。
 僕の場合、“そのお店の氷の量”ってヤツを覚えるまで、結構時間がかかったワケで。少女がまどかに似ているからという理由かも知れないけど、僕はそんな少女の微笑ましいミステイクを期待していたのかも知れず。

 でも、少女は………………一発合格だった。

 拍子抜けしてしまったのと、やっぱり自分が人一倍不器用だったんだなぁ、などと再確認しているうちに、少女はコップをトレーに並べ、さっとピッチャーから水を注ぎ、これまた手慣れた手つきでコップ分のソーサーと伝票を揃えた。

 「3番ですね?。ヒカリ、いきますっ」

 「ぉおっ!?。頼むよ」

 少女は颯爽と注文を待つボックス席に向かい、彼女の一連の動作は『お見事!』と喩えるのに相応しく、僕が初めてアバカブでバイトした時など足元にも及ばない程で。
 少女の脚の運び、背筋の張り、客のジョークを受け流す声、全てが僕の意識を惹き付けて止まなかった。
  僕は思った。今と同じように、こうしてカウンター席に座り、まどかのアルバイト姿を観察していたなぁと。

 「なるほどね」

 「え?な、なにがさ」

 僕が少女に気を取られているうちに、まどかは僕の隣に座っており、彼女は少女の後ろ姿と僕の視線の方向を確かめて、そう仕掛けてきたのに違いなく。

 「で、“春日くん”はドコを見てたのかな?。脚かな〜、それとも…」

 「胸とかだったりして」

 「で、いろいろエッチな想像もしてたりして…怒らないから、今、白状してくれてもいいわよ?」

 「え?、そ、それは無理…」

 まどかは僕の慌てぶりを見てころころと笑った。
 ジョークでかわしたつもりが、やはり、彼女の方が一枚上手で。今日の彼女ときたら、今朝からずっとこの調子で機嫌がいい。
 僕はといえば、まどかが僕のことを『春日くん』と呼んでいたあの頃の夏に引き戻されたようであり。そして何故だか、少女のささやかな希望が叶ったことにホッとして。

 「じゃぁ、そろそろ、恭介の悪だくみを教えてもらおうかな?」

 「へ? わ・る・だ・くみ?」

 「なんだぁ〜、まだ夢の中なの?」

 「そ、そうじゃなくって、ホラ、まどかとヒカリちゃんはどうやって出逢ったのかなぁってさ…」

 「教えてあげない」

 「えっ? そんなぁ〜、まどかぁ」

 「っとにぃ、しょーがないわね。 実は…」

 その後、僕はまどかから「嘘よ」と言われるまで、少女が実はまどかの腹違いの妹で、まどかは少女のことを知っていたけど、少女はまだまどかを姉だと知らなく、アバカブに来る途中でふと見かけたものだから、声をかけて「似たもの同士、お茶でもしない?」って事になり、あとで涙の再会シーンになる予定…という彼女の迫真の演技の前に、「うんうん、へー、そうなんだ、ふーん、ほーう」などと、気持ちよく踊らされちゃったワケであり…。

 でも、僕の悪だくみってなんだろ?。

 

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