春日恭介と鮎川まどかは、最近、2人のお気に入りに加えられたショット・バーのカウンターに隣り合って座っている。いろいろあったけど、なんとかここまで辿り着いた2人に乾杯。
「じゃ、あらためて。21回目の誕生日、おめでとう!」
「ありがと。開けていい?」
「うん。開けて開けて♪」
春日恭介。ビッグなプレゼントと大きく出た割には、小さな物体を鮎川まどかに手渡した。ちょうど、まどかの手のひらの上でポンポンとお手玉代わりになりそうな軽さ。開封口を赤いリボンで結んだ小さな紙袋。春日恭介自身が結んだに違いない結び目が可愛らしいというか、不器用というか。
まどかはリボンを解き、袋の中を覗き込む。ずっと前から決めてたなんて…興味津々。何が入ってるんだろ?。
「こ、………………」
「前に言ってたじゃん。アレ気に入ってたのにぃ〜って。…覚えてる?」
「……………ま、まぁ、…」
「んでさぁ、“春日くん!さっさと返して!。バカエッチ変態、近寄らないで!”って。オレ、酷い目にあった」
「あのときは、状況が状況だったんだもん。それで、勘違いしちゃって…。下着泥棒が捕まった後、ちゃんと…謝ったじゃない…」
「オレ、同じものをこっそり、まどかのチェストへ入れてでも、疑いを晴らしたかった。今でも覚えてる…。ソレ買うときにすっごく恥ずかしかったんだよ。店の人にジロジロ舐めるように見られちゃって。でも、勇気を出して買った」
「勇気って、…そんな大袈裟な…」
「事なの!。一大事だったんだ。でもさ、事件は解決しちゃって。…で、渡すに渡せないし、処分もできなくって。ずぅ〜っと持ってた」
「ずぅ〜っとぉ?」
「そう。妹たちに見つからないように隠してたんだ。新品だよ。いや、古いけど…いつか渡せる日にと思って。だからさ…」
「そうなんだ………」
「気に入らなかった?」
「ううん。嬉しいよ。でも…こんなところで渡さなくたっていいだろ?。袋から出せないじゃない…」
「あ、そっか。そうだよね。ゴメンゴメン」
絆の繊維を補修しあう2人を不意が襲った。鮎川まどかのコースターへ、バーテンダーが『ブラディ・マリー』を乗せ代えに来たからだ。2人の会話は途切れ、一瞬の空白が作った空間へと2人は落ちた。
「ま…」
鮎川まどかがリボンと戯れている。袋を再度結わえ直したリボン。出来立てのブラディ・マリーと彼女の間に置かれたソレを撫ぜる彼女の人差し指は、彼女が物思い落ちた事を恭介に知らせる。
恭介は思う。彼女はこうやって、ふと、恭介をこの世界に残したまま何処か、鮎川まどかしか知らない世界へ翔んで行ってしまう。こんな時、鮎川まどかの瞳はこの世界も、春日恭介も映していないのだ。テレパスのスキルを持たない彼は、彼女が彼に預けていった1対の宝石…瞳の中に、鮎川まどかを探し、思いを巡らせ…結果、独り占めすることを許されている男。すなわち、春日恭介、20歳。なのである。
恭介は塩気の効いたビッグコーンを幾つか口へ放り込んだ。彼は口腔の奥でコーンを押しつぶすように噛む。その、くぐもった音で呼び覚まされ、鮎川まどかが…ポツリと漏らす。
「コレさ、身につけると…何か…起こるかも知れないね。あたし…そんな気がする」
「オンナの第6感ってヤツ?」
「ラッキーアイテムだったりして、運を引き寄せるの。今夜、試してみようかな…」
「………………今夜?」
「うん。脱がされちゃう前に」
>>キミの瞳はそうやって僕に悪戯を仕掛けてくる。心を見透かして僕を慌てさせる。階段を登りつめたところで振り向き、キミを見上げている僕に向かって『この階段はやっぱり99段よ』と心地よさそうに髪をなびかせ、微笑む。…僕より1歳年上の…鮎川まどか。
「じ、じゃあ、今夜は…つまり………………わーい♪」
「ばぁ〜か」
>>キミを愛してる。
fin
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「くるみ!。今すぐお店に返してこい!。あかねにバラしたんだから約束は反故だ!。あれはオレのバイト代だったんだぞ!」
「やーだよーっだ。バラさなかったら、たーいへーんな事になってたくせに!」
「そーよ。お兄ちゃんの負けね」
「ま、まなみ…ソレ…お前まで…」
「ありがとう、お兄ちゃん。コレ前から欲しかったんだ」
「ああーーーー。オレの、オレの汗と涙の結晶がぁ」
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