「おはよ。復活した? ゾ・ン・ビさん」
「あ、ここは?、まどか…、あれ?」
バスローブを羽織ったまどかの肩上が僕から見えた。彼女は、僕の寝ているベッドの端角で両腕を組み、その上に顎を乗せ小首を傾げている。シャワーを浴びたのだろう、艶々した黒髪でシーツを少し濡らしながら。
「んもぅ、心配させないでよね。『寒いぃ苦しぃ』って大変だったんだから」
「あ、オレ…」
「小松君、怒ってたわよ。『酒癖の悪いマグロに予約していた部屋を占拠された、なんとかしてくれ、オレは鮎川じゃないんだ』って」
「あ、そうだ、オレ…酔い潰れて…」
たぶんここは、小松が合コンでゲットした『餌食ちゃん』とシケ込む予定だったホテルなのであり。幹事を引き受けちゃった小松としては、酔い潰れたヤツの面倒を見なければならず、仕方な〜く、僕に提供してくれたんだろうなぁ。ああ…、あとが怖い。
「やい、恭介。 聞いたぞ」
「か、数合わせで参加しただけだよ!。酒の勢いで騒いだことは事実だけど、…何にもしてないよ。ホントに何にもなかったんだ!。あ、痛っ」
僕はまたしても、ぐわぁ〜んと二日酔いで。こんな酷いところを、まどかに見せてしまったと自己嫌悪…どころじゃない!。
でも、まどかが傍にいてくれる、傍にいてくれるだけで僕は…。バスルームから聞こえてくる、彼女の流す水の音が、僕の身体全体に浸透してゆくような気分で…。
「はい。お水」
「…まどか、ごめん。オレ、いつの間にか甘え過ぎて…その…北海道に行かれちゃって、気が付いたんだ」
「あたしも」
「……………」
「恭介の体、氷みたいに冷たくって…」
「あ、オレ、裸…もしかして」
まどかは羽織っていたバスローブをするりと床に落とし、僕が引き寄せているブランケットとベッドのシーツの隙間から、身体を滑り込ませ…と、ひんやり冷たい彼女の脚が僕の脚に絡んだ。
「せっかく、予定を切り上げて、暖かいところに戻ってきたっていうのに、あたしまで凍え死んじゃうかと思ったぞ」
「ご、ごめん」
と、…このとき、僕の下半身は、目覚めの生理現象ってヤツの最中にあって、まどかを襲っちゃいそうな衝動が込み上げてきていた。恐らく一晩中、まどかは旅行帰りで疲れているのにも関わらず、僕のことを介抱してくれてたっていうのに、…な、なんてヤツだ! 僕は。
下半身に当たるブランケットが部分的に盛り上がっており、この状況、…なな、なんとかしなくちゃ。…でも、バレた。
「あ〜、恭介。エッチモードになってる。夢だけじゃ不満なの?」
「夢?」
「そ、夢」
「…ゆ…め?……むせ、………あ"ーっ!」
僕は反射的にブランケットをめくり、自分の下半身…、つまり、僕のアレを確かめた。き、キレイなままだ…あれ!?
「拭いといた」
「…そ、そんなぁぁ」
「誰の夢だったのかな〜?」
泣きたいです。春日恭介。鮎川まどかの前で、もはや男としての威厳は微塵もありません。でも、…まどかの表情には屈託が無く。ころころと笑い零してくれちゃっており。僕の生理現象も含めて彼女は僕のことを想ってくれていると…。
「ね、心臓の音、聴かせて」
「うん」
「……………………」
「どう?」
「しっ」
「………………………………………
………………………………………
………………………………………
………………………………………
………………………………………
…………………………(まどか?)」
まどかは恭介に体を寄せたまま、寝入り始めていた。
トックン、トックン、トックン
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